おはなし

□いつも笑顔で
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退団公演。そのお稽古場でちょっとずつ卒業する時が近づいてきているのをまだ実感出来ずにいる

そんな舞羽は音月が汗だくになりながらも笑顔を崩さず踊っているのを見つめながら思う

甘いお菓子のようなとびきりの笑顔
ときには鏡を睨みつける瞳

その人全てがキラキラしてて恋人の私はこんなに幸せでいいのかな?なんて思ったりする

退団...かぁ
卒業したらもうこんな幸せはめったにないのかな

そう思うと少し目頭が熱くなった

いけない...まだ泣いちゃ

軽く深呼吸している舞羽の隣に早霧がやってくる

「隣、座っていい?」
「あ!はい、どうぞ」

「もう少しだね...」

質問に主語はなかったがちぎさんの少し悲しそうな顔を見て何のことかすぐわかった
ちぎさんが私の頭の上に手を置いてふわふわ撫でる

「雪組からみみちゃんがいなくなっちゃうんだね、私さみしくなっちゃうなぁ...」
「ちぎさん...」

あまりにも綺麗に微笑むから私の頬が少し赤くなる

ちぎさんの手がおりてきて私の頬を撫でる
恥ずかしくなって少し俯くと同時に私の大好きな声が聞こえた

「ちょっとちぎ!!私のみみ口説かないでよ!」
「桂さん!」

桂さんが軽く睨むとちぎさんはすみませんと笑いながら去っていく
そんなちぎさんを見ながら少し笑うと桂さんは頬を膨らませる

「みみも!なに口説かれてるの!みみは私の恋人でしょ?」
「ふわっ!け、桂さんっ?!」

けっこう大きな声だったみたいで組子のほとんどがニヤニヤしながらこっちを見てる

「だいたいみみは隙だらけなんだよ、ちゃんと私の恋人ってことを自覚しないとっ!」

わざと“恋人”を強調して言う桂さんは少しいじわるな顔をしていた

「〜っ!わかりましたから許してください〜っ!!」

耐えきれずに必死に謝ると桂さんは得意げに笑いながら頬をつついてくる

「みみ、顔真っ赤だよ〜?」
「もうっ!いじわるしないでください〜っ」
「はいはい、許してあげるよ」

頭を撫でられそして私の手を掴むと

「そうだ!みみ、この後空いてる?」
「はい、なにも予定ないですよ」
「やった!じゃあご飯食べに行こ!」

一瞬びっくりするけどいっぱいの嬉しさから笑顔がこぼれる

「はいっ!行きます!」

桂さんは少し声を低くして

「では行きましょうか、お嬢様」

また少しいじわるな笑い方をするのでした...


〜〜〜〜〜〜〜


「桂さん、用意できましたっ!」
「ん、じゃ行こうか!」

桂さんと並んで廊下を歩く
そっと隣を見てみると桂さんは鼻歌を歌ってて私まで楽しくなってくる
この歌は、今回の公演の歌で...

「あっ!!」
「えぇ?!」

明日はお稽古お休みだから家で練習しようと思ってた曲だ!楽譜を教室に置きっ放しにしてしまった...

「みみ?どうしたの?」
「桂さん、すみません!忘れ物をしたので取りに行ってきます」
「いーよ、ついて行こうか?」
「いえいえ!大丈夫です」
「じゃあ、先に出待ち終わらしとくね、いつものところで待ち合わせ!」
「はい!」

桂さんを待たせるなんて恐れ多い
急がないと

確かここに置いたはず...あった!

きっちりカバンに入れて周りに挨拶してから教室を出る

小走りで廊下を走りながらひとつの教室を通り過ぎようとする
ん、この歌...
あまりにも素敵な歌声が聴こえてきて足を止めてしまう

この曲、この歌声は...
まっつさんだ

未涼が一人で歌の練習をしていたのを見つけ舞羽はついついその美声に聴き入ってしまう

なんて素敵な歌声なんだろう...
邪魔しないようにそっと教室に入ってみる
それでもまっつさんは私に気づいてしまった
軽く会釈するとまっつさんは微笑みながわざわざこっちを向いて歌い続けてくださる
まるで私だけに歌ってくださってるみたいでついつい照れてしまう...

歌い終えたまっつさんは優雅に一礼までしてくださった

「どうやった?ユーリディスさん」
「素敵ですっ!惚れそうです!」
「ははっ!そらよかった」

さっきまでとはギャップのある笑顔にキュンとしているといきなり腰を引かれまっつさんに急接近してしまう
おでこがくっつくほどの距離にあわあわしてしまう

「オルフェはユーリディスのこと触られへんけどカロンは触ってええんやんな?」
「あ、あのっまっつさん?」
「ははっ、冗談やん」

まっつさんの言葉に安心しているとこの近距離で見つめられる

「みみってほんま隙だらけやな、そら桂に怒られるわ...ってこんなんしてたら怒られるんは私やな」

まっつさんは軽く笑うと唇に人差し指を当てて「内緒やで?」と言った

「んじゃ、もう行き...桂が待ってるんやろ?」
「は、はい!お疲れさまです」

真っ赤な顔して教室を出ようとする

「ちょっと待って、みみ!」
「はい?」
「あんな、その...」
「?」

いきなりまっつさんが俯き気味になる

「あれやん...もうちょっとやけど、最後まで...桂とみみに向けて精一杯気持ち込めるから!」
「〜っ、はい!」
「わかったらさっさと帰るっ!」
「はい!」

まっつさんは完全に照れた様子で追い出すかのそうに帰らされた

普段はなかなか思ってることを口にしない方だから不器用であっても必死に伝えようとしてくださりすごくうれしい...

ちぎさんも今思えば私の泣きそうな顔に気づいて元気付けてくださったのかも...

お二人だけじゃない、みんな桂さんと私を心から想ってくれてるんだ
そう気づいた瞬間、涙が一筋流れた
もう大丈夫、さみしくない
私は涙を拭うと走りだす

桂さんのもとへ...

「っ!桂さんっ!!」
「うわっ!え?!みみ?」

桂さんの背中に抱きつく
こんなこと普段じゃ絶対出来ないはずなのに身体がかってに動いた

「どうしたの?なにかあった?」

桂さんがふりむいて正面から抱きついてるかたちになった

「桂さん...」
「ん?」

心配そうにしてる桂さん
私もちゃんと伝えなきゃ!

桂さんの目をちゃんと見る
そして、

「大好きです!」
「っ?!」

最高の笑顔を...



end

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