おはなし

□シンデレラ
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輝く馬車、硝子の靴、素敵な王子様。

そう、私が欲しい物。
青く晴れわたった空を煙草の煙で鼠色に染める

「かなめさん、」

そう呼ばれて振り向くと私のお姫様が、

「もうそろそろお稽古始まりますよ」

声には出さずに頷くだけ、彼女は少し微笑んでから去っていった。

彼女は私に無い物を持ってる。純粋な気持ち、揺るぎない意志、綺麗な心。それが羨ましくて、欲しくて、時々どうしようもなく自分がみすぼらしく思えてくる。
どうして、私の方が綺麗なはず、私の方が、私の方が、.......

「はぁ、」

溢れ出た溜息は鼠色。煙草の煙より濃いかも、
手にしていた煙草が誰かの手に奪われる、驚くことなく隣を見ると思った通り、づっくんがいた。

「こんなところで何してるの」
「んー、魔女待ち?」
「あっそう」

ツッコミも入れてくれずに私の煙草をもみ消す。

「で?どうしたの」「何が」「何かあった?」「ううんー、ただちょっと、」「寂しくなっちゃった?」

ちょっとびっくりしてづっくんの顔を見る。づっくんは無表情で、でもちょっと心配そうな顔をしてくれていて、あぁ、流石だね。

「うん、そうかも.....ちょっと寂しかったのかな?」「私に聞かれても困る」「ははっ、そうだよね」「うん、それでいい」「え?」「ぐっちゃんは笑ってればいいんだよ」

頭をクシャっと撫でてくれる、いい笑顔しやがって。

「で?連れてってくれないの?」「どこに」「舞踏会、呼びに来てくれたんでしょ?」

ふふん、と笑えばぐっちゃんも同じ顔。

「そうでした、私のシンデレラ」

手を差し出され自分の手を重ねる。重ねた手を握りあって二人してまた笑う。

「でかい奴らと鏡しかない舞踏会だけどねー」
「それ言っちゃ終わりでしょー」

もういいや、この人が私の王子様なら、輝く馬車も硝子の靴も要らないんだから。

さあ、踊ろう、貴方と一緒に。
鐘が鳴っても、いつまでも。



end

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