短篇

□過去が優しいと言うのなら、早く過去にできますように。
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高尾と緑間
いつもと変わらない昼休みに変わってしまう二人の関係








緑間真太郎がいつも持っているものといえば、
おは朝占いのラッキーアイテム。
お汁粉。
そして、本だ。
読書が好きなのか、休日は本を読んでゆっくりと過ごすことが多いというし、昼休みに開いていることもある。
どんなジャンルの本を読んでいるのかは知らないが、難しい顔をして文字を追っているのを俺は今日も黙って眺めている。
貴重な休み時間をただ真ちゃんを眺めて過ごしている俺に声を掛けてくれる友人もいるけれど、俺としては真ちゃんを眺めるために誘いを断ってしまうことがほとんどだ。
その度、真ちゃんは一度視線を上げて訝しげにこちらを見て、俺が机に頬杖をついて寝る仕草をするとほっと息を吐き再び本に向かう。
もちろん俺は寝る訳ではなく、そのままの姿勢で真ちゃんを見つめる。

その瞳が長い睫に隠れる瞬間が、
そして、本を閉じてエメラルドのような瞳がまた自分に向けられる瞬間が、
そんな一瞬の世界が、
堪らなく綺麗で、
癖になるほど好きになってしまったからだ。

自分でもおかしいとは分かっているのだけれど、これがないと物足りない気分になってしまうのだから仕方ない。
何故なのかなんて考えたことはないけれど。

(あ、眉間にシワ寄った)

見つめているのに気がつかれたのかもしれないと思ったら、案の定真ちゃんは「鬱陶しいのだよ」と言って本を閉じた。


「何か言いたいことでもあるのか?あるならさっさと言うのだよ」

「んー?あんまり難しい顔してるからただ何の本読んでんのかなと思ってただけよ?」


笑って適当に誤魔化すと、真ちゃんは納得したみたいで読んでいた本を躊躇いがちに差し出してきた。


「なに?見ていいの?」
「ああ」


カバーが掛けられているそれを受け取り、表紙を捲り中表紙にある題名を確かめた。

(これって・・・)

最近映画化されて話題になっていたものだ。確か、帯にも銘打つくらいの恋愛小説。
正直、らしくないなと思ってしまった。
パラパラと流すように一通りページを捲り、最後にもう一度題名を確認してから真ちゃんに本を返した。


「真ちゃんもこういうの読むんだね」


そう言って茶化すと、ムッと眉を寄せて睨んできたがすぐに視線を逸らされた。


普段は読まないのだよ。ただ、どういうものなのか、気に、ならなくもなかっただけで」


真ちゃんにしては珍しく歯切れの悪い答えに俺は首を傾げた。
どういうものなのか気になったとは、何のことだろうか。
恋愛小説?
いや、普段は読まないと言っているだけに苦手であるのは自覚済みなのだろう。
なら、この本を読んで何が知りたかった?
まさか、



「恋愛が知りたかった、とか?」



それこそらしくないだろうと半信半疑で発した言葉に、真ちゃんの顔は真っ赤に染まる。


「え?マジで?え?」
「ちがっ・・・!」
「いやいや真ちゃん、そんな表情で否定しても説得力ないからね?」
「くっ、見るな!」


赤くなった顔を隠そうと顔を背け腕を翳す真ちゃんだが、その仕草が俺の気分を高揚させた。
もっと見ていたいところだが、程ほどにしておかないと真ちゃんが本気で怒ってしまう。残念だが、はいはい見ませんよーとまた茶化して見つめるのをやめた。
でも、すぐに視線のやり場に困ってしまい、まだ机にあった真ちゃんの本を手に取りそれを眺めた。

(恋愛ねー・・・)

そこではたと気がついた。
何故真ちゃんは恋愛を知りたかった?
恋愛を知る必要があった?
恋愛をしたかった?
誰と?
誰がそんな気持ちにさせた?





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