短篇

□満たされたあの日のまま、終われたらよかった
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キセキ×黒子
だけどキセキ出てこない
誠凛でのお話
ギャグ







夏の体育館は天然のサウナと化す。
いくら窓を開けようが、扉を開け放とうが風が入ってこないのでは熱も篭ってしまうものだ。そもそも、動き回っているのだから暑いのには変わりない。
そして、そんな中で練習をしていれば通常より体力が消耗していくのは当たり前。
只でさえ体力のない黒子はふらふらしながらもなんとか持ち堪えていたと思ったのだが。

「黒子!寝るなぁ!!」

日向の怒声が飛んだ先を見ると、そこには黒子が力尽きてうつぶせに倒れていた。
その光景を見慣れている部員達は「大丈夫かー」「いきろー」など茶化すような調子ながらも激励を飛ばし、黒子もいつもならそこでなんとか起き上がるのだが、今日はピクリともしない。

「?」

この暑さだ。もしかしたら、マズイかもしれない。
本来ならマネージャーが助けに行くところなのだろうが、生憎誠凛にはマネージャーはいない。互いに手を差し伸べるのが常だ。

心配になった火神は監督であるリコに一言告げ、ドリンクを持って黒子の許へ向かった。




黒子に近付いていくと、彼はうつぶせのまま荒く息をしている。
火神が近付いてきた事に気が付いたのか、黒子の右手の指先が微かに動いたのが見て取れた。
どうやら意識はあるようだ。
ほっとした火神は、黒子にドリンクを飲ませるために起こそうとしゃがみ込み、彼の肩に手をかけた。

「オイ、大丈夫か?」
「ひっ!」
「うお!?」

ビュンッと空を切る音を立てて飛んできたものを火神は鼻スレスレのところでなんとかかわしたものの、咄嗟の事にバランスを崩し尻餅をつく羽目になった。

心配して声を掛けたのに、なんたる仕打ち。

火神の手は何故か悲鳴とともに急に起き上がった黒子に振り払われたのだ。
振り払われたどころか、裏拳が飛んできた。

「何す…!?」
んだ!と怒鳴りかけた言葉は飲み込まれた。
何故なら、黒子は瞳を潤ませて睨み上げながらも逃げようとしているのか力が入りきらない足をばたつかせて後ずさったからだ。

(俺そこまで悪い事したかー!?)

泣きたいのはこっちだと言いたいが、今までに見たことがない黒子の取り乱し方に、火神は戸惑うばかりだ。
呆気にとられる火神の手からボトッと落ちたドリンクのボトルが転がって黒子の足に当たり、その軽い衝撃とボトルの冷たさによって黒子は、はっと我に返った。


「火神くんでしたか……驚かさないでください」
「それはこっちのセリフだ!」
「…すみません、条件反射なんです」
「は?」


裏拳が?
黒子の背後から声を掛けると裏拳されるということだろうか。

「むしろ、反射的にできないと身の安全が守れません」

どういう生活してんだ?とツッコミを入れかけた火神の言葉は、黒子の声で遮られた。見ると、座ったまま自分を抱きこむような格好でガタガタと震えている。


「彼らの前で隙なんて見せたら、まず貞操が危ない」

「は?」


ていそう?
火神の頭の中の辞書が示す意味と黒子が説明する状況が一致しない。
黒子が「彼ら」と呼ぶのは「キセキの世代」の事だろう。
しかし、男同士で貞操が危ないとはどういうことだ?

その疑問の答えは、問わずして黒子からすぐ投下された。


「今みたいに倒れていたらズボンに手を掛けられたり、シャツの裾から手が侵入してきますし。その後どうなるかなんて想像したくないですししないでください。ああ、まだあるんです。給水してるとじっと口元を見つめてくるんですよ?至近距離で。シュート練習しようとすると背後から手を重ねられるんです。男同士で何が楽しくてそんなことしなくてはいけないんですか」


まるで息継ぎをしていないように矢継ぎ早に放たれた言葉に火神だけではなく、騒ぎを聞きつけて集まってきた2年生組までも固まらせた。
それでも黒子は止まらない。

「彼らと同じ高校に行かなくて本当によかったです。もし一緒だったら……だなんて考えたくないですけど一緒だったら胃に穴が開く上に、バスケより護身術が上達しそうです。というかもうすでにコンボ技は習得してるんですが。どうしてくれましょう」


相変わらずの無表情なのに口角だけ吊り上げた黒子を見たバスケ部全員の背中にゾクリと悪寒が駆け上がった。


「まず、一泡ふかせてやりたいものです」


さて練習しましょうと立ち上がった黒子の背中に声をかけられる者など誠凛バスケ部にはいなかった。







 
満たされたあの日のまま、われたらよかった
 





end


Title by 確かに恋だった


アトガキ
キセキの一方通行的なキセキ黒も、悪ノリしちゃう黒子さまがいる仲良しキセキも大好きです。
だからってふざけすぎでしょうか……すみません。
でも、帝光編もあったりします。←

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