短篇

□それはもう恋みたいなものだよ
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紫原と黒子
 帝光時代


  


紫原は、黒子のことは嫌いではない。

部活後の自主練の時、そんな事を黒子本人に言ってみたら彼は無表情の瞳に僅かな喜びの色を浮かべて、「ありがとうございます」なんて返事をしてきた。
その答えに紫原は首を傾げた。
何故、お礼を言われたのだろうか?
「んー?」と首を傾げた紫原に、黒子は穏やかな口調で教えくれた。


「紫原君は嫌いじゃないと言ってくれたでしょう?ということは僅かでも好意はあるんですよね?」


だから、嬉しいですと。

嬉しいと言われて紫原は余計に分からなくなった。
確かに黒子に好意はある。
大好きなお菓子の話に付き合ってくれるのは部活内で黒子だけであるし、普段から物静かで淡い雰囲気の彼と一緒にいるのは落ち着く。
でも、黒子が一番好きなものはバスケだ。紫原と黒子は言い合いになることは珍しくなく、意見が全く合わない。
ちょっと惜しい、紫原はそう思っている。
だから、「好き」ではなくて「嫌いじゃない」。
黒子の全てが好きと言ったわけではないのだ。

(それって嬉しいの?)

首を傾げたままの紫原を横目に、黒子はゴールに向かってボールを放った。
放ったボールはゆるゆると放物線を描き、リングに当たり跳ね返った。
それを見ていた緑間が溜息を吐き、一軍に上がってきたばかりの黄瀬が訝しげな視線を送ってくるのが目に入った。
跳ね返って床に転がるボールを眺めていた紫原は何か思い至ったのか、口を開いた。


「わかったー。黒ちんのバスケと一緒だね」


その言葉に黒子は瞠目した後、ふと表情を緩めた。


「そうかもしれませんね。僕は決して主役にはなれない」


黒子はドリブルで切り込めるわけでも、シュートを撃ち得点を重ねられるわけでもない。
できるのはパスを繋ぐことだけ。

どんなにバスケが好きでも
、どんなに努力しても。

チームメイトに怪訝な顔を向けられることも少なくないし、嫌がらせもあったと聞くのに。
それでも、黒子はバスケを嫌いだとは言わない。
それほど黒子のバスケへの想いは強いと言えるのだろう。
それを肯定するように黒子は「だけど」と続けた。


「今、これをやめてしまったら僕は僕でいられない気がします。」
「これって?」
「バスケです。ユニフォームを脱ぎ、コートに立つことを諦め、ボールを捨てたら…なんて考えられません」
「ふーん」


そうだ、自分たちと同じコートに立っている。
きっと少し前の黒子には考えられないことだろう。
しかし、黒子は「バスケができればそれで……」とは言わない。

(やっぱり黒ちんだって全部欲しいって思ってんじゃん)

なのに。

「だから、僕は報われています」
「俺には理解できなーい」
「……ですか」

自分から話を振っておきながら、紫原はそこで会話を止めた。
段々苛ついてきたからだ。
全てが報われるとは限らないのに好きとか分からない。
苛立ちを沈めるかのように、紫原は持っていたボールをゴールに向かって放る。
ボールは綺麗にネットを潜っていった。

「それってさぁ――」








ただ、気まぐれに続けた言葉に頷いた黒子の表情が何故か憎らしかった。









それはもうみたいなものだよ
 
実るとは限らないからこそ、すべて欲しいと思う


End





Title by 確かに恋だった

無自覚なムッ君とバスケに恋する黒子くん
ムッ君が黒子くん苦手な訳が無自覚の恋心からくるバスケへの嫉妬だったらいいという話

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