悲恋歌―あの空の彼方に―

□秘めた決意
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平助と別れた舞華は、永倉、原田と共に屯所に帰還していた

その翌日


「――舞華、近藤さんの部屋まで来い
話がある」

土方が、いつも以上に険しい顔で舞華に言う

――何か、良くない事でもあったのかな……?

それか、もしくは昨日の件だ

平助を逃がしたのは舞華であり、御陵衛士を捕縛・暗殺し損ねた責任は、舞華にある

「……近藤さん
連れて来たぜ」
「ああ、トシ
入ってくれ」

近藤と土方と向き合う形で舞華は座るように言われた

「話というのは他でもない
昨日の件と、これからについてだ
――平助は、無事に行ったのか」

近藤が、声をひそめる
まあ、それが一番二人が気になっていた事だろう

「はい、昨日」
「そうか……」

口には出さなかったが、近藤も土方も、安堵しているのが伺える
そこには、安堵と共に淋しさもあるように舞華には思えた

「――おい、本題に入るぞ」

土方の予想以上に険しい声に、舞華は身を固くした


「舞華、お前は千って奴の所に行け」


お千ちゃん
以前、花見の席で仲良くなった女の子
あれ以来、何度も街中で会っている
前に一度、家に来てもいいと言ってくれた子だ

――何で、いきなり……

「――新政府軍が発足して、旧幕府軍を倒そうという動きがあるんだ
新撰組は、幕府に従って戦に参加するようになる
安全な所に君は避難した方がいいという事なんだ」

近藤が、補足説明を付け加える

確かに、私は人を斬る覚悟はないし、戦にも参加は難しいだろう
でも……

「はっきり言うが、足手まといだ
先方に話はつけてやる
話は以上だ」

立ち上がり、土方はさっさと退出してしまった
近藤は何かを言おうか迷っているようで……
居心地の悪い空気が流れる

このまま近藤に迷惑をかける前に、舞華は自分から退出することにした

部屋まで戻る足取りが覚束ない

もう何も、する気は起きなかった
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