悲恋歌―あの空の彼方に―

□別れた道
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慶応三年、三月

「今日は……豆腐と菜っ葉を買って、他には……」
「なんかいっぱいあるな
それに、土方さんから頼まれた買い物もあるんだろ?」

京の町では、平助と舞華が買い物をしている最中だった
平助の手にはもうすでに、いくつかの包みがある

「うん……」

なぜこんなに沢山買い物をしなければならなくなったのか

――それは、昨日の事

「うわあああっ!」

「うるせえぞ、平助!」

平助の叫び声に反応して、人が台所に集まった
どうやら、何かあったらしい
土方は額に手をあてて、深いため息をついていた

「――まさかな…」

土方の視線の先には――


――食べ物を食い漁っている、猫がいた


「よし、捕まえるぞ」
永倉を筆頭に、沖田、藤堂、斎藤が猫を取り囲む
「せーのっ!」

――ドタドタッ

「いてーよ!それ、オレの髪!」
「あれ?猫の毛じゃなかった?
ほら?」
「わざとだろっ!総司っ!!」

「――あっちだ」

斎藤が、素早い動きで三人を避け、廊下の先を指さす

猫は、呑気にも毛繕いをしていた

「……あの猫ぉっ!」

なんか、平助君が猫を捕まえるのって……執念?

斎藤はといえば、猫をじっと見つめていた
……早く捕まえないんですか?
沖田は、すっかり状況を楽しんでいる
永倉は純粋に猫を捕まえたいようだ

こうして、この後一時間にも及ぶ“追いかけっこ”は始まったのだ


その頃、台所では

「――この材料じゃあ今日の夕食を作るのが限界ですね……」
「……だよな」
原田と舞華が被害に遭わなかった食材をえり分けていく
「今日は雨だ
明日行くしかねえだろうな……」
土方は、はあ、とため息をついた
「舞華、悪いが、これで今日の夕飯と明日の朝飯を作れるか?」
「……はい、何とか」
「――頼む」



――ということだ


つまり、今日の昼食からの食材がない

重たい荷物を二人で分担しながら屯所へ帰ったのだった……
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