悲恋歌―あの空の彼方に―
□うたかたの時
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元治二年二月
「伊東さん!それはどういう事だっ!」
「あら、私は山南さんを心配して申し上げたまで……」
広間では、土方と伊東が言い争っていた
伊東は山南の左腕がもう治らないと知った上で、わざと話題にしているのだ
「副長……
私の左腕はもう――」
「まあ、山南さんには剣などなくとも、その頭脳がありましたわね……」
山南の表情が徐々に曇っていく
――酷いやり方……
このままだと、山南さんは堪えられなくなっちゃう!
「――伊東さん」
「でも安心しましたわ
その左腕が治るというのなら、ね
では、ごきげんよう」
意地の悪い笑みを浮かべて、伊東は退室した
山南は未だ俯いたままである
見かねた永倉が、口を開いた
「山南さん!あんな奴の言うことなんか気にすることはねえぜ!」
「そうだ!オレ達は山南さんに居てほしいんだよ!」
「――少し、考えさせてください……」
そう呟くのがやっとであった山南に、誰も、それ以上は何も言えなかった