悲恋歌―あの空の彼方に―

□洛陽動乱
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元治元年六月

舞華がこの世界に来て、約一年が経つ

「土方さん、お茶をお持ちしました」
「ああ、そこに置いといてくれ」

この会話は、日常になっていた

穏やかな日が、ここの所ずっと続いている
土方は外を見て、このまま穏やかな日が続けばいい、と思った

舞華は、家事もするようになった
隊士の服の洗濯は勿論、配膳、買い物等、様々なことをこなしている

「あ、舞華ちゃん」
「おはようございます、沖田さん」
庭で洗濯物を乾していると、沖田が通り掛かった
「今日もまた洗濯?」
「はい、こういうのは毎日しないと駄目ですから」
「ふうん……そういうのはほかの隊士にやらせればいいのに……」
「?何かおっしゃいましたか?」
「ううん、何でもないよ?」
……?
まあ、いいか
ああ、そういえばと沖田が思い出したかのように言った
「このあと、何か用事ある?」
「このあとは……そうですね、土方さんと夕餉の買い物に」
「今日の晩御飯、何?」
うーん……考えてなかったなぁ
何にしようかな……
あ、そうだ!
「葱と豆腐のお味噌汁と――」
「うわぁ……」
献立を話している最中に、沖田が心底嫌そうな顔をする
「えっ?すみません、何か……?」
「葱……」
「えっ!?沖田さん、葱がお嫌いなんですか?」
「うん」
危なかった……
うっかり知らずに葱を夕餉に出す所だった……
「それなら、蕪にします」
「……う…」
――まさか…
「あの、蕪もお嫌いですか?」
「……うん」
「そうだったんですか……」
「基本的に、苦いものは苦手かな」
「分かりました
ちょっと注意して買ってきます
あ、でも、体にいいものは出来るだけ食べてくださいね?」
「了解
ありがとう、舞華ちゃん」

そう言って沖田は去って行った
……なんだ、沖田さんは葱と蕪は嫌いだったんだ……

でも、身体にいいからなんとかして食べてほしいな
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