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□愛、再認識。
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「‥‥あ‥」


見てしまった。

誰もいない捜査一課の大部屋。
今日は菊田と2人で夜勤、
その菊田がトイレにと席を立ったとき、
ちょっとした出来心で、
菊田の手帳を開けてしまったのだが
後悔しても時すでに遅し。


「何よ‥コレ」


手帳の最初のページには、
菊田と綺麗な女性のツーショットが挟まっていた。


「‥な‥んで‥」


玲子は溢れ出る大粒の涙を抑えることができない。
ここが職場だということも忘れていた。


「主任ーコーヒー買って来まし‥た‥よ?」


「‥‥っ!!!!!!」


あまりのショックに、
菊田が帰ってくることを忘れていた。
慌てて涙を拭うが、
菊田相手に誤魔化すなんて
到底出来るわけがない。



気まずい沈黙を先に破ったのは玲子だった。

とはいえ、


「‥ちょっと外の空気吸ってくるッ」


そう、ぶっきらぼうに叫ぶことしか出来なかったが。


すかさず、走り去ろうとした玲子の腕を掴むのは
やはり、菊田であった。


「そんな状態の主任、
1人に出来るとでも思いますか?」


物凄い形相で睨んでる玲子に物怖じしない菊田は、
"部下"ではなく、完全に"恋人"の顔だった。


「何があったのか、
ちゃんと話してください。」


あくまでも優しく問いかける菊田に折れたのは玲子で‥


「‥離してよ」


と呟くと、その場にへなへなと座り込んでしまった。

─我ながら情けない。


ふと周りを見回した菊田の目に、
無造作に広げられた自分の手帳が見えた。

─コレ‥か。


菊田は自分の机まで行き、問題のソレを手に取る。


「コレ‥ですか、主任?」


へたりこんだまま、
焦点の合わない涙目の玲子が
上目使いで菊田を見つめる。


「‥え?‥‥‥うあああああっ」


焦点が合ってきた玲子には
明らかな焦りの色が見える。


「まさか主任、俺がこの女性と浮気してるとでも思ってます?」


「‥‥うっ」


予想的中。
菊田は深いため息と同時に玲子に近付きキスをする。


「‥え、ちょ、きく‥んんんあっ」


「こいつは、俺の姉貴です。俺が浮気なんかするはずないでしょう?」


「‥なんだ、お姉さんか。良かっ「良くないです」」


玲子が話し終わる前に菊田が反論する。


「だいたい、なんで浮気を疑うんすか?そんなに俺、信用ないっすか?」


きょとんとしている玲子をよそに、菊田は続ける。


「俺がどれだけ、‥どれだけ主任を想ってるか‥、伝えてきたつもりですが、足りなかったみたいですね。」


玲子の顎に手を当て、くいっと上に持ち上げると、菊田はそのまま口付けた。

先ほどのような甘いキスではなく、
ねっとりとしたキスを施す。


「‥んっ‥はぅ‥‥」


わざとチュっと音を立てて唇を離すと、


「俺を疑ったお仕置きです、覚悟してくださいね。」


玲子を立たせると、窓際に置いてあるソファーまで連れて行き、組み敷いた。


「え?ちょ‥菊田、ここ職場だから、」


「俺らしかいません。」


「いや、勤務中だし‥」


菊田は、はあ‥とわざとらしくため息をつくと、
玲子の耳元で低い声で囁いた。


「玲子、これお仕置きだから。分かってるよね?」


「‥‥ッ」


だめだと分かっていても止められない、逆らえない。

2人だけの夜が、はじまる。




-fine-




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