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□ずっと隣に
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「きくた、ちゅーして?」


今いるのは俺の部屋。

そしてキスをせがんでくるのは
俺の可愛い恋人なわけだが‥‥。


「ねぇ、きくたっ!ちゅーしてよ、ちゅー!」


はあ。
どんだけ酔ってるんだか。
俺だってキスはしたいし、触れたいし、抱きたい、今すぐに。

だけど、
酔ったままの彼女を抱いても
明日の朝には忘れているだろう。
気を張っているのだろうか、
普段、ここまで酔うことはあまりない。
だからこそ本当に酔ったときは、
一般人の3倍は処理に困る。
いつにも増して俺を誘惑する。
しかも無意識に、そして朝には何の記憶もないんだからたちが悪い。


「‥んっ」


でも結局俺は彼女には敵わない。
どうしようもなく惚れ込んでいるから、
誘われればいとも簡単にその誘いに乗ってしまう。


「‥ん‥‥あんっ‥」


彼女の鼻にかかった吐息がなんともいやらしい。
すっかりその気になった俺は、
角度を変えて、何度も唇を重ねる。
俺の首に回された彼女の腕の力が強くなる。

それを合図に彼女を抱き上げベッドへ運ぶ。


「‥‥」


いつもなら重いからやめて、
と嫌がるのに、今日はやけに大人しいのが不思議で顔をのぞくと‥


「‥‥?!」


寝て‥る?

信じられない、
普通この状況で寝るのか?笑

穏やかな顔で規則的な呼吸を繰り返す彼女をベッドに寝かせると、
俺もその隣に横になる。

まあ仕方ないか、
長かった帳場がやっと片付いたんだ。

警視庁捜査一課の班長ともなれば、
相当気を張っていたはず。
しかも彼女のあの性格だ、
疲れていて当たり前だろう。

ふと眠っている彼女に目をやると、
穏やかだったのが一転して、苦しそうな顔をしていて不安になる。

誰にも負けないと強がる彼女は、
それと同時に脆く儚い感情も持ち合わせている。

俺は‥
何かの小さなきっかけで崩れてしまうであろうそれに、
その感情に彼女が押し潰されないように、
守るために支えるために彼女の隣にいたい。
改めてそう思った。

そして眠っている愛しい彼女の瞼にキスをひとつ。


苦しそうな顔が、少し穏やかになった気がする。

俺は彼女の指に自分の指を絡め、目を閉じた。


翌朝の彼女の目覚めが、
幸せでありますようにと願いながら。




-fine-





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