ポケ江戸!

□ポケ江戸!
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「すまねぇミミロルちゃん。ありがとよ」

今度はしっかりと面と向かってミミロルに礼を言った。
ミミロルはとんでもないと笑顔で返す。

「どういたしまして♪」

「……で、ミジュマル。そんなに慌てて、一体何があったんだ?」

ミジュマルとミミロルによって完全にほのぼのとなってしまった空間は、親分が言葉を発した途端に崩れ去った。
はりつめる空気が再び長屋中に流れ始めると、二匹は笑顔を消して親分と向き合う。ミミロルは親分の表情を確認するとすぐにその場を離れ、空になった湯のみをのせたおぼんと共に台所へ入っていく。ミジュマルも目を合わせるとひざまずき、額から一筋の汗が流れると同時に口を開く。

「えっとー……あのですね……」

しかし、長屋に飛び込んだ時よりもさらに落ち着きがなく、何故か困ったように言葉をにごし始めた。
これを見たピカチュウ親分はとっさにあることを思いおこす。もう一度ミジュマルの様子を見て確信を持つと、一気に肩の力を抜いてため息をつく。

「……またか」

先程とうって変わっていかにも嫌そうな声を放つと、ミジュマルはへぇと申し訳なさそうに返事をする。
それからはまるで詰問でもするかのように親分は質問を繰り出し始める。

「場所は?」

「今回は大通りの真ん中で……」

「止められなかったのか〜?」

締まりのない口調が、親分の機嫌の悪さを物語る。内心ひやひやしながらミジュマルは答え続ける。

「騒ぎを聞きつけてすぐに間に入ったんですが、すぐにぶっ飛ばされまして……」

「にしては衣が焦げてないなぁ?」

「素手で『邪魔するなー!!』のダブルパンチだったんで……」

「あーなるほど!」

ポンッと、親分は右のこぶしを左の手のひらに置いたと同時に声を上げた。
その瞬間、重くはりつめていた空間とミジュマルの不安と恐怖が一気に吹っ飛ぶことになる。

「って納得しないで下さいよー!! おかげでココと反対方向に飛ばされて大変だったんですよ!?」

あの二匹にまるでタネマシンガンを受けた如く飛ばされ、必死になって長屋を目指した自分の姿を思い返した。

「アハハハハッ。わりぃわりぃ。ココまでご苦労だった」

泣きながら怒っているミジュマルを笑ったまま制すると、親分は帯に刺している十手を片手にすくっと立ち上がる。
つられてツタージャとチャオブーも立ち上がると、歩き始めた親分の後についていく。ミジュマルも一歩遅れて彼らについていったが、しばらくは親分の背中を見ながら納得がいかない表情をしていた。
もちろん、親分はそんな視線を無視して目的地へと急いでいたのだった……。


* * *


〜ポケ江戸大通り〜
ポケ江戸の中心とも言える"ポケ江戸大通り"。この通りには、最初から最後まで商店や茶店、飯屋や遊び屋などの店がこれでもかとずらりと並んでいる。町人はもちろん、多くの旅人達も行き交う、まさにポケ江戸の自慢の場所である。
しかし、普段なら商人の売り込み声や訪れる者の楽しげな声で満ちているはずのが、今日に限ってはかなり静かだった。ポケモンが一匹もいなくなってしまったのかと思ってしまう程だ。
だが、それは単なる例えに過ぎず、大通りにやってきていたポケモン達は皆、大通りの中心に集まっていた。まるで何かを取り囲むように並び、その中心だけをぽっかりと空けて見物人となっている。
その見物人達の視線の先――中心にたたずんでいたのは、先端がビリビリと鳴りながら黄色い光を放つ十手を持つ親分と、子分のミジュマル、ツタージャ、チャオブー。そして、今回の騒ぎの原因である、リザードンとカイリューであった。二匹だけは親分達とは逆に座り込んでおり、衣服や体がところどころ黒く焦げている。

「おいピカチュウ……」

リザードンが苛立ちのこもった声で親分の名を呼ぶが、すぐに親分が言葉をさえぎる。

「リザードン。今の俺はお前とは長〜い付き合いがあるただのピカチュウじゃない。お前達みたいな"アホなケンカ"をする奴や、よからぬことをする悪者を鎮めたり、取っ捕まえたりする岡っ引きの親分だ。お・や・ぶ・ん!」

ピカチュウは親分という単語を分かりやすく教える如く強調して言った。

「じゃあ、親分さんよー」

「じゃあ、じゃねーよじゃあじゃ」

親分は文句を言いながらも、面倒臭そうに言葉を発するリザードンの言い分を聞くことにした。

「そのケンカ止めんのに、いきなり十手で電撃浴びせんのはどうよ」


* * *
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