ポケ江戸!

□ポケ江戸!
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ここは、ポケモンだけが住む江戸の町"ポケ江戸"。江戸風の衣類を身につけるポケモン達が、平和に楽しく暮らしている。
しかし、そんな平和なはずのポケ江戸のとある大通りを、タッタッと騒がしく走っているポケモンがいた。濃いめの水色の着流しを身にまとうミジュマルだ。両袖(りょうそで)の衣(ころも)を肩までまくり、ずれないように白いひもで結んでいる。

「てぇへんだ、てぇへんだーー!!」

ミジュマルはある場所に到着するまで、ずっと同じことを叫び続けていた。


* * *


〜とある長屋〜

「親分さん。お茶が入りましたよ」

桃色の着物姿をしたミミロルは、おぼんにのせていた茶を持つと、長屋の中心であぐらをかいているピカチュウのそばにそっと置いた。そのピカチュウは、大きな稲妻が施された黒の着流しを身にまとっている。

「あぁ。ありがとうミミロル」

親分と呼ばれたピカチュウは軽く礼を言うと、いれたての香りがたつ茶を一口すすった。するとたちまち、顔をうれしそうにほころばせた。

「う〜ん。やっぱりミミロルのいれるお茶はうまいなぁ」

「やだ〜親分さんたらっ」

ほめ言葉にミミロルは一気に頬を赤くすると、役目を終えたおぼんでその顔を押しつけ隠した。しかし親分は全くその様子に気づいておらず、表情をゆるめたまま茶の旨味と香りをのんびりと楽しんでいた。
そんな二匹の様子を、すぐ近くの円卓にひじをついて座るツタージャとチャオブーは呆れながら眺めていた。ツタージャは緑の葉っぱ模様が描かれた黄緑の着物を、チャオブーは自身の足跡の形とゆらゆらゆれる炎を組み合わせた模様を大きく一つ描いた黄土色の着流しを身にまとっている。

「ホント親分って鈍いよね」

「本当よね」

どうやらこの光景は日常的なことらしい。やれやれと顔を見合わせているが、あまり面倒臭そうに思ってもいないようだ。
それどころか茶をおいしそうにすする親分を見て、二匹は急にノドの渇きを感じる。

「でも、ミミロルちゃんのいれるお茶はホントにおいしいよね」

「そうそう。そこら辺の茶店にも負けない程にね」

ツタージャは右手を上げ、まだうれしさに浸っているミミロルに向かって声を上げる。

「ミミロルちゃん!」

「ハッ……は、はい!」

名前を呼ばれて現実に戻ったミミロルは、驚いた表情をそのままツタージャ達に向ける。二匹はそれを気にせず、ミミロルに向けた笑顔を崩さないままもう一度言う。

「ミミロルちゃん!」

「僕達にも、おいしいお茶頂戴!」

一瞬戸惑ったが、茶を欲していることを理解すると、たちまちミミロルはいつものようにニコリと笑う。
どうやら、先程自分がはしゃいでいたことを戸惑いで忘れてしまったようだ。

「はーい。今いれてきますねー♪」

おいしいお茶いれなきゃ、と急いで台所に向かおうとした、その時。

ピシャンッ――

と、勢いよく音をたてて長屋の戸が開け放たれた。そしてそれと同時に、大声だがかなりかすんでいる声が飛んでくる。

「親分! ピカチュウ親分!」

開けた戸の先にいたのは、ぜぇぜぇと肩で大きく息をするミジュマルだった。

「どうした、ミジュマル」

ミジュマルの様子に慌てることなく、先程の笑みとはうって変わって真剣な面持ちで親分は聞いた。ツタージャとチャオブーもノドの渇きを忘れて仲間の言葉を待つ。

「ぞ……ぞれが……」

かすれ声で再びしゃべろうとした途端、急にゲホゲホと咳き込み始めた。親分の名を呼ぶ時は頑張ったが、全速力で走ってきたため、ノドが異常な程カラカラなのだ。たった今それが限界にきたらしい。
そんな時、いつの間にか台所に戻っていたミミロルがおぼんに湯のみをのせてせっせと持ってくる。

「ミジュマルさん。お水です」

差し出された湯のみが視界に入ると、ミジュマルはまた咳き込まないように気をつけながらそれを右手でつかんだ。

「あ゛り……」

礼の言葉を言いかけたが、最後まで言えないと改めて思い、そのまま一気に口に流し込んだ。特別冷たいというものではなかったが、ノドを潤すには十分だった。

「ぷは〜〜。生き返ったー」

脱力した声で大げさに言うと、ゆっくりとした動作で湯のみをおぼんに戻した。
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