ポケダンハロウィンパーティー
□ポケダンハロウィンパーティー
1ページ/7ページ
ここは、創造主ノアが創り出した世界の一つ……とは言っても、この世界にあるのは鬱蒼(うっそう)とした森と、その森の真ん中に建つ洋風の屋敷が一軒だけ。つまりとても小さな世界なのだ。なぜこのような世界をわざわざ創ったのかというと、ここにとある小説世界のポケモン達を招き入れるためだ。
「ねぇ、リオン」
その例の屋敷の前に立つメスのライチュウ――ピカリは、入口である扉を見た瞬間相棒であるオスのルカリオ――リオンに話しかけた。
「なんだ、ピカリ」
リオンは普段通りに相手の次の言葉を促(うなが)すが、この時点で何を言ってくるのかは安易に予想できた。
「……帰ろ?」
「ダメだ!」
案の定、予想通りの言葉が返ってきたため容赦なく切り捨てた。しかし彼女がこう言い出すのは仕方がない。むしろ当然の反応だと言っていい。リオンも、もし今手にしている招待状がなければ、ピカリ程ではないがそれなりの反応を示してこの屋敷からすぐに離れようとするからだ。
扉の横にある立て看板に、【ホラーの屋敷へよ・う・こ・そ♪】といかにもそれらしい字面で書いてあるのだから……。
(黒の板に赤の文字とかもろオバケ屋敷じゃねぇかっ!)
「だって〜〜!」
「落ち着け。どうせノアがお前を驚かすために置いたんだろ」
「それでも怖いものは怖いもん!」
ピカリはリオンの左腕に抱きついて震えながら訴えた。自分がホラー系が大の苦手だと知っている相手がわざと置いた物だと知っていても、身体が反応せずにはいられない。
「でもよ。これノアが書いたにしては本格的すぎないか?」
リオンが帰ろ帰ろと駄々をこねるピカリの相手をしていると、隣に立つもう一匹のオスのルカリオ――ルカが疑問を口にした。彼はリオンと違って右腕に金色に輝くリングをはめている。よく見るとリングには青い線が一本入っている。
リオンは言われてもう一度看板を見ようとする。
ギイィィィィィィ――
その時、扉が外側に向かってゆっくりと開き始めた。
突然のことにピカリはまたビクリと身体を揺らすが、開け放たれた後に立っている一匹のピカチュウを見た瞬間その緊張を解き始める。
「……ノア?」
「そうじゃなかったら誰なの。後、なんで怯えてんの?」
そこにいたのは先程から名が挙がっている、メガネを掛けたメスのピカチュウ――ノアだった。三匹が招待された"ハロウィンパーティー"を企画した者であり、この世界と彼等の住む世界を創った創造主でもある。
ノアはピカリの様子を不思議そうに眺めていた。
「なんでって――」
「まぁいいや。それより早く入って! もうみんな集まってるよ?」
(あれ……?)
今度はリオンがノアの様子を不思議に思った。普段なら、イタズラが成功したらニヤニヤしながらさらにちょっかいをかけてくるはずなのに全くその気配がない。
(もしかして……)
リオンはこれはノアの仕業じゃないと考え始める。念のため確認しようと口を開きかけるが、それよりも先に友人のルカが言葉を発する。
「なぁノア。この立て看板なんだけど」
どうやら彼も同じことを考えていたようだ。リオンは手間が省けたと思いながらノアの返事を待つ。すると、ノアの表情が次第にパアッと明るくなっていった。
「かわいいでしょ? せっかくのパーティーなのに、屋敷の前がそのまんまだとなんか寂しいし暗い感じに見えるでしょ? だから明るくていかにもパーティーやるよって感じなのを作ってね♪ 絵は上手く描けないから大きいポケモンシールを使って――」
ふと横を向いた途端、ノアはビクッと反射的に身体を揺らした。先程まであった物が全く知らない別物になっていたからだ。何処からどう見てもオバケ屋敷の前に立っていそうな看板にしか見えない。自分が作った、カスタードクリームのような薄い黄色を塗った板にバケッチャとパンプジン、お菓子や仮装道具のシールをたくさん貼った看板は何処へ行った。
「えっ……何これ」
思わず困惑しそうになるがすぐに頭の中が落ち着いてくる。意外にも早く冷静になれた自分に少しだけびっくりした。
「これっていつからあった?」