あいとゆうきとむげんのかなたへと
□第五話 つよさのりゆう
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「相手はあの鈴か。一年で代表候補生になるってのは大変なんだろうな」
「どういうことですの? 一夏さん」
既にアリーナに出ている鈴のISを見ながら呟いた一夏にセシリアが反応した。
「鈴は中2の……中3に上がる直前に国に帰ったんだ。そん時はまだISの『あ』の字も聞いた覚えもないから多分一年で代表候補生になったんじゃないかと」
「たったの一年で……強敵でしてよ。一夏さん」
「わかるさ。嫌でもな」
透夜という強者と刃を交え、放課後は箒や時々セシリアに鍛えられていった一夏は自分の弱さを自覚していた。
セシリアには接近する前に完封され、箒は同じ近接戦闘タイプなのに捉えきれずに終わるパターンが続いていた。それも2人にも一撃も入れられずにだ。
セシリアは相性もあるし毎日ISの訓練をしているのも場所が同じアリーナだから知っていたし、改めて代表候補生の強さを知った。
だが箒の方はなんというか。
太刀筋は変わらない、そもそも訓練機の打鉄の使用申請があるからまだ3回しか戦ってないが、妙に透夜の動きに被る。
機体の動かし方というか、攻め込むタイミングとかがだ。
「(それに鈴も怒らせて本気にさせちまったしなぁ)」
鈴のISは中国の第三世代型の甲龍-シェンロン-。別になんでも願いが叶うISとかじゃないからな。
それはさておいて、警戒するならあの非固定浮遊部位だな。肩の横に浮いている棘付き装甲。あれでショルダータックルなんぞ喰らったら痛いじゃすまないだろう。
銃とかEO兵器みたいに浮いてて自動攻撃する砲台とかあれば少しは間合いを離して様子見とか出来んのになぁ。なんで白式には拡張領域がないんだか。透夜にどうにかなんないか相談出来れば――
一瞬千冬姉に似た女の子を思い出した。
あんな殺気の籠もった目を見たのは初めてだ。もし視線で人が殺せるなら、俺は殺されていただろう。
もう時間だ。鈴も観客も待ってるし、なにより今日は政威大将軍 煌武院悠陽殿下がこのクラス対抗戦を見に来ているんだ。普通なら有り得ないことらしいし、IS学園が開校してからは初めてのことだそうだ。煌武院殿下が来てるなら護衛に帝国斯衛軍だって動いているはず。
俺は透夜みたいに誇りはないが、男としての意地とプライドはある。
それにブレオン――刀を使ってるんだ。
無様な姿なんて晒せるか。
「一夏」
「ん? なんだ箒」
「ケガには気をつけろ。ただそれだけだ」
なんだかいつもの箒らしくない言葉に調子が狂う。いつもの箒なら『絶対勝ってこい』くらい言いそうなんだが。
「なんか最近、変じゃないかお前」
「ひ、人がせっかく心配してやっているというに! この唐変木! 爆発して死ね!」
うっ、調子を戻そうとしたらかえって怒らせちまった。ていうか爆発して死ねはヒドくないか?
「はぁ……箒さんも苦労しますわね」
「まったくだな。こんな救いようのない唐変木の朴念仁のドコが良いんだか」
「ちょ、それはどういう意味だよ千冬ね…ぇ……」
噂をすれば影。口で噂しなくてもあるらしい。
そこにはあいつが居た。
透夜が居るからだろうな。
「なぁ透夜」
「なんだ? ちなみに俺でもBT兵器とかEO兵器は持ってないし、白式はエネルギー変換効率以外にはいじれないISだし、そもそもお前は銃を扱った経験も無い。貸せるのはコイツくらいだ」
俺の思った事をすべて言い当てた透夜。
「お前はニュータイプか!?」
「残念、ESP能力者だ。それにニュータイプはお前だろ。そんなニュータイプ君にはこれを貸そう」
量子状態から実体化した物体は黒い盾だった。
黒に赤いラインの引かれた盾であってその外縁に沿って刃が付けられてる。
「攻盾システム『トリケロス改』。3連装超高速運動体貫徹弾:ランサーダート 50o高エネルギー・レーザーライフル ビームサーベル 外縁の実体剣を備えた複合兵装攻盾システムだ。しかし武器と盾を一緒にするという矛盾からくる取り回しの悪さから正式採用に至らなかった打鉄の試作装備だ。拡張領域がなくても使用許諾したソレ直接装備していけば使える。対レーザー蒸散膜処理がされていてEN兵器と実弾両種の攻撃に対応可能。レーザーだから反動も皆無。距離減衰はfaを参考に出来る。ランサーダートはほぼ無誘導だからロケット感覚で撃て。実質二刀流だ。ブレオンでリンクスには好ましい武装だろう?」
「サンキュー透夜。恩に切る」
「女の子を泣かせるようなヤツに肩入れは些か思うところがないわけじゃないが、今日は特別だ。殿下が見ていらっしゃる。日本男児として恥じぬ戦いに期待させてもらおう」
「応ともよ!」
まったく、なんだかんだ言いながらいつも助けてくれるんだから、透夜には一生頭が上がらないな。
「ちなみにソレはもう一つ予備のヤツとこの世に2つしかないから、交換可能な刃と表面装甲以外は壊すなよ?」
「うげっ、なら盾に使えねぇじゃんか」
「バカ、仮にもIS用の盾だ。ランサーダートを使い切ってビーム兵器が使えなくなっても捨てるなって意味だ」
「あ、あぁ。わかったぜ。それじゃあ行ってくる」
ここまでお膳立てされて無様に負けるようじゃ、透夜にも千冬姉にも顔向け出来ないしな。
勝てないまでも切り傷一太刀くらい入れてやるよ。
俺は白式をカタパルトに固定して対Gショックに備えて膝を折る。っと、あとお約束を言わねーとな。
「織斑一夏、白式――出撃る!」
タイミングを見計らったように射出される白式。
そのまま地面に着地する。
《一年一組 織斑一夏。二組 凰鈴音。両者規定の位置まで移動してください》
エンジンは温めたままアナウンスに従って規定の位置まで歩き出す。互いに距離は5m。でも鈴は空中に浮いてるから直線距離は8mから9m弱ってところか。
ギリギリまで手の内を少しでも明かさない。正々堂々の勝負の中にも策を講じる。
透夜、箒、セシリアがそれを教えてくれた。
それにISは兵器だ。
兵器を使う以上、スポーツでもそこは戦場なんだ。
代理戦争程じゃないにしろ、ISは兵器として戦って進化してきた。
絶対防御で人が死なないからって遊び感覚で出来る程、ISバトルは生温い競技じゃない。絶対防御だって完璧じゃないんだ。
「一夏、今謝るなら少しくらい痛めつけるレベルを下げてあげるわよ」
「ああ。確かに禁句を言ったのは謝る。でも手加減はいらない」
トリケロス改は利き腕の右に装備してきた。攻防一体で瞬時に切り換えるなら利き腕の方が良いし。
それに雪片弐型――零落白夜は使うタイミングは一瞬だ。
その一瞬の展開時に一太刀入れるくらい左腕でもわけない。
「俺も刀を使う男だ。手加減、容赦、一切不要!」
「っ、言ったわね。一応言っておくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させられる。殺さない程度にいたぶることも可能なの」
「身に染みて覚えてるからその辺は大丈夫だ」
セシリアのレーザーライフル然り、透夜の斬撃然り。
シールドを抜けてくる攻撃はなにも初めてじゃない。身をもって知っている。
《それでは両者、試合を開始してください》
アナウンスと共にブザーが鳴り響く。それを合図に鈴が動いた。
背中から取り出した刃がバカデカい刀――斧と槍と剣の特性を併せ持つ、甲龍の近接固有武装『双天牙月』を振り下ろしてきた。
重力を味方につけた加速はブースターを併用する事で瞬間加速には及ばないが十分速い。
だがISの速さはともかく、斬撃の速さは箒や透夜に及ばない。
鈴を視界から離さずに左にサイドステップ、同時に右のブースターを一瞬噴かす。
QB-クイックブースト-の真似事だが、鈴の意表は突けただろう。
武器を振り下ろして今は行動直後の所謂技後硬直。
迷わずにトリケロス改を鈴に向けてトリガーを引く。発射されたのは若葉色のレーザー。コジマじゃないよなコレ?
「くっ!」
足を地面について振りかぶった勢いを強引に身体伝えて前に倒れ込むように回避する鈴。だが肩の非固定浮遊部位にレーザーが中る。
「キャァッ!!」
しかも中ると爆発した。
オイオイオイ!! なんなんだよこのライフルは!?
威力はセシリアのライフルより下みたいだが正式採用されなかったのが不思議な威力だぞ! 弾速だって悪か無いし。レーザーライフルじゃなくてハイレーザーライフルだろコレ!
「やってくれるじゃない。なら手加減も不要よね!」
やべぇ……今の一撃で鈴のヤツを本気にさせちまった。
恨んで良いか? 透夜。
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