星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-
□第16話
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現れたのはギターケースを担いでギターをかき鳴らす男だった。
黒っぽいボディスーツみたいな服の上には白衣を着て、緑色の髪の毛に白いメッシュを入れ、アホ毛みたいなのを生やす奇天烈怪奇な存在。
認めたくなかった。認めたら何かが終わりそうだったから。
「ヘイ! そこな小娘共! 大人しくそのビルとビルのスキマに挟まっている間抜けな偃月刀を我輩に寄越すのであーる!」
「なぁ、アレ……」
「あたしはなんも視てない聞いてない知らない認めたくない」
眼を閉じて耳を塞いで外界からの干渉を断つ。
「ふむ。魔力探知機『教えて!ダウジン君!』の針が触れたので、やって来てみれば……なるほど! そうか! そうであったか!! やはり母なるガイアは我輩を見捨ててはいなかった。我輩の科学をもってして魔導を超越するという野望の為に、ガイアは我輩の前に『アル・アジフ』という至高の魔術の落とし子を遣わした!! アル・アジフ、そしてマスター・オブ・ネクロノミコンを超えた先にはなんちゃって魔法たる魔導の存在など月とミトコンドリアにも等しい存在っ! あり? しかしガイアは地球の平和を守るウルトラマンであり、悪の中の悪党をひた走る我輩にとってはむしろ敵であるからにして、やっぱりこれは地球が我輩を淘汰する為に用意した英雄か!? う、裏切ったね! 僕の気持ちを裏切ったね!!」
その怒涛の爆裂はっちゃけの雄叫びは、耳を塞いだ程度では防ぐのはまず無理だった。
「しかし我輩は母なるガイアを潰すわけにはならん。何故ならば母なるガイアは我輩が魔導と決闘する舞台だからなのである! まぁ、とりあえずはバルザイの偃月刀を貰い受けるのである! 秘技、るぱんダァーイブ!!」
「だああああっ!! うるさいうるさいうるさい!! つか寄るなこの公然公害キチ○イ変態マッドサイエンティストォォォォーーーー!!」
魔力を秘めた拳をアッパーカット気味に、ルパンダイブで突撃してきたキチ○イを殴り上げた。
「げぼろぐぼ!!」
アリサにカチ上げられたキチ○イは反対のビルの壁に叩きつけられた。
「お……お…ぉぅ……ぅ……」
しかしキチ○イはこの程度では滅びない。
「ぐあっはあっ!! 殴ったね!? 我輩を殴ったね!? お袋にもぶたれたことないのに!!」
「とりあえずもう一発殴ってやろうかしら」
腰のマギウス・ウィングが解け、拳の形を取る。
「くぅ、なんたる屈辱であるか。これだから最近の若者は被害妄想激しくて嫌なのである。ただ我輩は偃月刀を手にしようとしただけである!」
「その動作にルパンダイブをする必要性が感じられないわよ! このキチ○イ!!」
確かにルパンダイブの必要性はない。てか第三者からすれば幼女を襲うキチ○イの絵図にしかならない。
「こぉぉの娘っこっ!! 人の事をキチガイキチガイキチガイとぉぉぉっ!! 良いか!! 我輩はこの次元宇宙に唯一無二の大! 天! 才ぃぃぃっ!! ドクターウェストとはこの我輩のことである!!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!! この厨二パチモンキチ○イ!!」
声高らかに叫んだ自称ドクターウェスト。しかしそれをアリサはバッサリ躊躇なくパチモンと切り捨てた。まぁ、当たり前だろう。
「き、きっさまぁぁぁああ!! なんど言わせれば気が済むのであるか!? この一億と二千年に一度と言われている世紀の大! 天才に向けてパチモン呼ばわりとは! 確かに我輩はアメリカはマサチューセッツ州アーカムシティ在住の大! 天! 才! ドクターウェストとは違う存在ではあるが同じ存在っ! 言わば異世界同位体であるのである! 故に我輩はドクターウェストであり、決してパチモンではないのであるからにして、本物の我輩の科学と努力と冒険の結晶をその目ん玉ひんむいて刮目するが良い!」
乱れ荒れ狂うギターのシャウト。
シャウトに合わせて何故か遠くから響く地響きに、アリサは考えるまでもなくいや〜な予感がしてきた。
「ねぇ、アル……」
「言うな。良いか? 世の中には言霊と言う物があってな――」
しかし世界はいつでも誰にでも無情だ。
コンクリートの地面を粉砕し、ソレは現れた。
ガッキョンガッキョンとその小さな脚でどうやって支えているのか訊きたくなるような70mの鋼鉄の巨体。
ビルを薙ぎ倒し民家を踏み潰してソレは現れた。
「ぬはははははははははははははははっ!! うひゃーははははははっ! どうだね、これが我輩の最高傑作っ!! 『スーパーウェスト無敵ロボ28號GGGカスタム! 勇者もドリルとは話しがワカるぜい旦那!!』である!」
「ちょ、ちょっと!!!? こんな街中てか、アーカムシティ以外でそんなデッカいロボット持ち出すんじゃないわよこのキチ○イ!!」
アーカムシティのように邪悪との戦いや破壊ロボットの出る非日常を想定していない海鳴市にて現れたドクターウェストの破壊ロボ。
薙ぎ倒されたビル、踏み潰された民家。
いったいこのロボットの登場で何人の人間がたった今死んだのだろうか。
「ふん。別に気にする必要性など皆無である。この街一帯にも何やら防禦陣が敷かれ、有象無象は転移させられる大規模魔術が行使されているのであるからにして、さぁアル・アジフとそのマスター・オブ・ネクロノミコン、アリサ・バーニングよ、貴様等の鬼械神を喚ぶのである! デモンベイン無くこの世界での貴様等の鬼械神とくればアイオーンのみ。術者の命を燃やす最強の鬼械神を召喚するのだ!!」
「バーニングじゃなくてバニングスよっ!! てかあたしの名前をどうやって調べたのよ!?」
「ふぁっははははは!! ペンタゴンすらハックするのは朝飯前の我輩にとっては、市役所の戸籍データや監視キャメラにハックするのは朝飯前というか昨日の夜飯どころかランチ前なのである!」
「このヘンタイめ」
「へ、へ、ヘンタイッ!? ……この我輩を変態呼ばわりだと!? 貴様! 人類が生み出した脅威の頭脳に対する畏敬の念というものをすっぽり出してよりにもよってヘンタイ呼ばわりとは……。やるか! やるのであるか、おい! よろしい! リングに上がれ! こうなったら友情が芽生えるまでとことこん殴り合ってやるのである!」
誰がアンタみたいなキチ○イとお友達になりたいか!!
や、なのは辺りならなりそうでなんかコワい。
「ともあれアリサ・バーニングよ! 早く鬼械神を喚ぶのである。なに、我輩は悪党の中の悪党であるからにして、変身中や進化中や合体中や召喚中に攻撃するようなKYな真似はしないのであるので安心するとヨロシ。(但しシナリオによってはあえて攻撃するAKYとなる)」
「だ・か・らっ! バニングスだっつってるでしょーが!!」
「落ち着けアリサ。熱くなるな」
「フゥ…フゥ…フゥゥゥッ……」
しかしいくら叫ぼうがなにしようが、今の2人には喚べる鬼械神はないのだ。
かとはいえ、マギウス・ウィングとアトラック=ナチャ、回収予定のバルザイの偃月刀で破壊ロボを相手にできるかと言われれば、いくら我の強い負けず嫌いなアリサでもNOと言わざる得ない。
「さぁさぁさぁさぁ!! 早く鬼械神を喚べい! ハリーハリーハリー!!」
つかムカつく程に色々うっさい。
せめてクトゥグアかイタクァでもあれば――
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