星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-
□第14話
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「閃ッ!」
廊下を駆け、壁を蹴りながら私はなのはちゃんの下に急いでいた。
「っ、邪魔!」
廊下の曲がり角から踊り出た人形を七ツ夜の一閃で斬り捨てる。
斬り捨て、崩れ落ちる人形――その後ろから別の人形が今までにない速さでその手に持つ斧を振りかぶってきた。
勢いづいて技後硬直の間を狙われたその一撃は防ぎようがない。
「カット――」
横合いから黒い衝撃波が斧を振り下ろす人形を解体した。
私は壁を蹴って横に飛び出し、慣性で飛んできた斧を避けた。
「無事かね? 我が主よ」
「ズェピアさん!」
悪性情報を使った攻撃の時点で相手は予想済みだったけれど、これでなのはちゃんの下に向かうスピードが上がる。
「ズェピアさん、なのはちゃんの居場所はわかりますか? 早くなのはちゃんの下に行かないと」
「確かに芳しくはなく、どさくさに紛れてメインキャストを降板させようという無粋な輩には総監督直々に降板宣告がもっともだろう」
「ちょっとまってください! それじゃあ」
「向こうの狙いは高町なのはだろう。そして吸血鬼の血を継ぐ君を警戒し、入るのは容易く出るは困難な空間型の結界――つまり物理的に独立した世界をわざわざ君の為に一つ用意している」
すずかの額に青筋が立つ。
彼女がもっとも嫌うのは、身内や友人以外に自身と彼女の間を邪魔されることだ。
500年を生きるズェピアをして出るのは困難といわしめる空間型の結界となれば自分がどうこうしてもどうにもならないだろう。
しかしこの月村すずかという少女は『そんな程度』では諦めない。
それは彼女が魔術師-メイガス-だからだ。
錬金術師-アルケミスト-を守護する為に吸血鬼の血を呼び覚ました魔術師-メイガス-は、この程度のことは壁にすらならない。
「さて、どうするかね?」
「……なのはちゃんの下に」
確かに大本を叩く手もあるが、彼女の行動志向は『高町なのは第一』なのだ。
そして彼女が、高町なのはとの間を邪魔される以外にも嫌う事がある。
「私のなのはちゃんに手を出した。その罪は重い」
新たに現れた人形を、七ツ夜で切り裂くのではなく、その拳で殴り飛ばした。
雁技者でなく、吸血鬼月村すずかが廊下を歩く。
「そうだとも――」
身体の魔術回路が活性化し、金色の輝きを放ちすずかの身体を包み込んだ。
しかし相手は怯む事も知らない人形。
金属バットや鍬、鎌、箒、シャベルで武装した人形が光に包まれたすずかに迫る。
「Blast――!」
すずかの声が凛と響き、すずかに襲いかかった人形達が次々と破裂していく。
「焔えちゃえ――!」
すずかの言葉と共に世界は白く焔ゆる。
彼女の発する熱に耐えきれぬあらゆる物質が白く焔ゆる。
光の中から現れたすずかは、8歳の子どもから10代後半の女性となって顕れた。
それは最強の吸血鬼としてのイメージが真祖の姫である事に由来する。
人体の最盛期に差し掛かる10代後半から20代前半になる身体をイメージするのは簡単だ。何故なら最も身近に手本となる姉が居るからだ。
そして胸が姉より大きく見えるのはちょっとした対抗心だろう。
「何度も観るが、君の氷結系統はもはや魔術と言うよりは魔導に近いな」
廊下や人形達ばかりか世界その物の構造まで凍てつかせたすずかに、ズェピアは感嘆する。
魔術を始めたのはなのはが最初だ。手探り状態で聖杯の助けなくサーヴァントを創りだしたその技術にも驚かされるが、総合力では世界の因果を観ることが出来るすずかもまた、魔術を始めて一年未満とすると有り得ない成長速度だ。
アリサが戦いの中でデジャヴを感じ、戦えたこと。
それがいつもすずかは観ることが出来る。
手探りのなのは。既視感を疑問に思うアリサ。すべてを観れるすずか。
1からゲームを作るなのは。ゲームをプレイするアリサ。攻略本付きでゲームをプレイするすずか。
感覚的にはそんな感じなのだ。
しかしそこで生きるのは地の努力とスタートした時間の差だ。
一番戦いを知るなのは。一番技術に秀でるすずか。最高位の魔導書の主のアリサ。
皆、諦めることを知らない彼女達だからこそズェピアはすずかに仕えるのだ。
子どもだからという理由ではない。むしろ3人は大人よりも大人らしい。
そして未来を信じて諦めない。
世界の滅亡は迫っている。
そう遠くない未来で、世界はリセットを迎える。
それをさせない為にすずかは戦う。
大切な者の未来を守る為に。
それは家族であり、友人であり、彼女と自身の為に――
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