星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-

□第12話
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なのはとすずかちゃんが家を出て行ったあと、私はなのはの布団の中にくるまっていた。

未だに脳裏に焼きついて離れない人の死ぬ光景。

こうでもしてないと怖くて仕方がない。

私はもう何人の人を手にかけてきた。でもそれは私自身が望んだ復讐だ。

私を殺した人に情けなんて、道徳なんていらない。あるのは殺すという目的と復讐という感情だった。

でも今回は違う。

見ず知らずの他人で、私はなんらその死に関与していないから、その無惨な死が、焼きついて離れない。

布団にくるまって、なのはの香りのする布団に包まれることで私は自分の心を恐怖から守っていた。


《おや、こんなところで何をしているのかな?》

「…アナタこそ、乙女の寝室に無断で入って何をしているの? ワラキアの夜」


部屋に居るわけじゃなくても頭に響いてくる声。

念話だ。


《サーヴァントとはマスターを護る者だ。ゲシュペンストとて君も現界しているのに魔力を使っているのは例外ではない。マスターが居なければサーヴァントは基本的に消え逝く運命は免れない》

「わかってる」


私にとってなのはとの繋がりは私の命に他ならない。なのはが居ないと私も生きていけない。
だからサーヴァントとマスターは一蓮托生。

でなくとも基本的に協力関係になる。

私はなのはと――『彼』と一緒に居たい。

でも『彼』は私よりも強いもの。私が居ればかえって足手纏いになるかもしれない。


《足手纏いになるかもしれない。彼は私よりも強いから――やれやれ、悲劇のヒロインでも、もう少し気の利いた思考をこの物語りは求めているものだがね》

「っ、アナタッ!!」


ばっと布団を抜け出して索敵する。でも近くにワラキアの夜の気配は無い。


《凡百の小娘の思考を読み取るくらい、私には造作もないことだ。君の思考は同じ方向性を向きながら真逆だ。それでは『彼』の方がまだ評価に値する》

「ッ、アナタに『彼』の何が解るのよ!」


私は今、過去に無いほど頭にキていた。

別に私の思考を読まれたのはどうでもいい。

でも『彼』を私よりも知っている口振りに頭が熱くなった。
《解るとも。彼は私と同類だ。希望の見えない未来に戦いを挑んでいる同士。異界から呼ばれた同士。私は君よりも彼を解っている》

「……………」


頭が沸々と煮えたぎってくる。

私がワラキアの夜を警戒する理由。

それは確かに吸血鬼でタタリである。でもそれ以上に感じる危機感。

私は所詮この世界の住人だ。でもワラキアの夜と『彼』に共通する『異界』という、異邦人という言葉。

私にはわからない。

『彼』とラインは繋がっていても、すべてが解るわけじゃない。

『彼』にだって家族は居たはず。

大切なものはあったはず。

……想い人も居たかもしれない。


《さて、君はどうする? ゲシュペンスト。自身の脆く脆弱な覚悟のまま、『彼』と戦い私達の足手纏いになるか、そのまま震えて『彼』の帰りを待つか。選ぶと良い》

「ッ――!?」

《どうやら結界が張られたようだ》


そんなこと言われなくても、私も感じた。

世界を書き換える感覚。

世界の一部を隔離された。


《さて、どうする?》

「……行くわよ」


布団から出て服を着替える。


「私には確かに自信とか覚悟とかないけど――」
下着の上から黒い長袖のインナーを着て、黒の上着とズボンを穿いて、服掛けに引っかかっている黒いコートを羽織る。


「でも私は行くわ。そして戦う!」


怖い。確かに恐い。

でも本当にコワいのは、なのはが死んでしまうこと。

なのはが死ねば私が死ぬからじゃない。


「『なのは』が死んでしまえば、私は私じゃ居られないから!」






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