星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-
□第11話
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夜。
それは闇に住まう者達の時間にして領域。
そんな暗闇の支配する街を私はアリスと共に歩いていた。
それはここ最近の怪事件を調べる為だ。
連続飛び降り自殺。
海鳴市の中心部のオフィス街の高級マンションからの飛び降り自殺。
もうここ半月で同じ場所から3人。
自殺者は3人とも高校生くらいの少年1人と少女2。
その3人の共通点は今のところは中学生が同じだったというくらい。
「俯瞰風景……よりは簡単かつ簡潔な事を祈るしかありませんね」
「俯瞰風景? 高いところから見下ろす風景が何か関係あるの?」
私の呟きを聞いたアリスが不思議そうに問い返してくる。
「ええ。とはいえ、実際の現場を観てからでなければ判らないですが」
そうこうしている間にも目的のマンションへと辿り着いた。
マンションはオフィス街に相応しく縦長のビルだった。
上を見上げてみてもマンションの天辺はかなり高い。
こんなところから落ちれば人間も床に落として割れた生卵と同じ末路になるのは当たり前だ。
「アリス、なにか感じますか?」
私はアリスに問う。
実体を持ちながら霊質に近い彼女ならばなにか感じるのではないかと。
「ごめんなさい。私には何も」
「いえ。謝らないでください」
アリスの返答に答えながら私は飛び降り自殺跡に近寄る。
「霊的でもなければ魔術的でもない」
自殺跡の血痕の後に手を翳して情報を読み取っていく。しかし血痕跡からでは大した情報を得られなかった。ただ、魔術にかけられて操られていなかったというくらいしか。
眼鏡のレンズ越しに空を――睨むように見上げた。
しかしそこに人が浮いているわけでもなかった。つまりあと何人飛び降りるなんてのも判らない。
「手が込んでいるのかそれとも――」
これ以上今は長居しても仕方がないと思った私は帰ろうと踵を返したところで――
ぐしゃり――
背後からそんな形容し難く、強いて形容すればそんな音が耳に響いた。
「きゃぁぁぁぁああああーーーー!!!!」
続いたのはアリスの悲鳴。
反射的に振り向いてイタクァを構えていた。狙いはマンションの屋上。魔力と意思を込めて銃爪を引いた。
腹に響く轟音、闇を灼くマズルフラッシュ、腕に伝わる反動。
六発の誘導弾はマンションを駆け上がり、屋上に到達するも獲物を見つけられなかった。
「(逃げられましたか?) アリス!」
私はイタクァに弾丸を再装填しながらアリスに駆け寄る。
「な、なのはぁ……」
手で顔を隠したアリスが力無く私にもたれかかってくる。私はそれを受け入れ、アリスの嗚咽を聞きながら地に視線を向ける。
アスファルトには朱色が流れていく。
原型を留めているのは服や細く小さな手足だけで、その背中や手足は不自然に盛り上がっていた。
そして貌の亡い、潰れた顔。折れて砕け散った歯や頭蓋骨を割って出て来た脳漿やその中身は、私が『理』を模して客観的に物事を視ていなければ、アリスが傍にいなければ、アリスが私の代わりに泣いて努めて冷静にいようと私がしていなければ、私はアリスのように取り乱し心に一生残る衝撃を受けただろう。
私はそれを、顔をしかめながら焼きつけた。
どこの誰であるかわからない。だがこんな事を仕出かす者を許しておけるわけがない。
警察に通報し、私はお父様と兄様が迎えにくるまでアリスを抱き締めていた。
存外、私も脆いものだったのですよ。
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