星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-

□第10話
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「できた……」


薄暗い部屋の中ですずかは呟いた。

家の敷地内に設けた自身の工房で、日夜すずかは様々な魔術と錬金術を実践している。

ズェピアという師が居るが、魔術や錬金術への理解力はなのはに一歩劣っている事をすずかはなのはとの話し合いで自覚した。

なのはは既にクトゥグアとイタクァ――厳密に言えばブラックロッジの逆十字-アンチクロス-の1人にしてあのマスターテリオンの母でもある魔人ネロが九郎に譲った魔銃を贋作とはなのは本人談とはいえ造り上げてしまったのだから。

さらに二挺の魔銃に必要な弾丸も。

さすがに材料の問題からイブン・ガズイの粉薬は量は少ないが生成していた。

イブン・ガズイの粉薬は霊的な物質効果を高める効果を持ち、この二挺の魔銃には欠かせない魔薬なのだ。

その製法は、二百年以上遺体が埋葬されている墳墓の塵を三、微塵にした不凋花-アマランス-を二、木蔦の葉の砕いた物一、細粒の塩一を土星の日、土星の刻限に乳鉢で混ぜ合わせる。調合した粉薬の上でヴーアの印を結び、コスの記号を刻み込んだ鉛の小箱に封入する。
魔銃の魔弾は鉛の小箱の代わりに火薬と混ぜたイブン・ガズイの粉薬を薬莢に封入し、さらに弾丸にも『The Minions of Cthugha』――魔力を注ぎ込めば爆裂弾になる刻印と、『Wendig the BlacKwood』――敵を捕らえるまで追い続け、急所を仕留める自動追尾弾となる刻印を刻み込んで再現に成功している。

そして魔銃自体がもつ魔力によって魔術師で無くとも僅かな魔力で効果を使える部分まで再現している。

友人として嬉しく想い、褒め称えたい。

そして自身を奮い立たせた。

護ると誓いながらなんたる無様か、なんたるていたらくか。

姫は着々と戦う力を研磨していると言うのに――

自分は姫のナイトでならなければならない。

彼女を護る剣で在り、彼女の道を切り開く刃で在らなければならない。


だから私はこの力を手に入れた――!


満月の夜に咲く紅い華。

姫を想い咲き誇る赤い華。

その身の内に宿した朱いココロ。


「フ、フフ、そう……基からニンゲンじゃないんだもん。今更ニンゲンを止めたって構わないよ。ヒトとしてなのはちゃんと一緒に居られるなら……フフ、フハハハハハハッ、あっはははははは――!」
闇の中で彼女は嗤う――

笑う――

咲う――

身に宿した力が――求める。


「さぁ、次は誰が私に血をわけてくれるの?」


彼女は嗤う。

自分を狙ってきた哀れな蝙蝠達を。

最近月村の屋敷の夜は大分騒がしい。静かな夜を甘受する暇もなし。変わりに自身の力を試し研磨し実験するまたとない時間の為、それなりに彼女は蝙蝠達に感謝はしている。

しかし蝙蝠では吸血鬼には勝ち得ない。

そして吸血鬼にして本物の吸血鬼――死徒を従える彼女を、彼女の庭たる海鳴の地で襲うこと自体が間違っている。

少なくとも相手と間が悪い。

満月の夜は最も魔が力を得る夜。

しかし蝙蝠達は識らないのだ。

何故ならば生きて帰る者も居ず、本物の吸血鬼の怖さを知らないのだ。

だから哀れにも生贄を送り続ける。


「フフ、やっぱり……男より女のヒトの血の方が――輸血物より生の血が、そして処女-オトメ-の血はオイしい。ウフフ……なら――」


全身から放つ威圧感が増し、哀れな生贄達は気圧される。

彼らは人攫いのプロ、戦いのプロだが相手が悪い。
何故ならば彼女は選択したからだ。

姫を護るナイトになる事を。姫の剣となる事を。魔刃となる事を。吸血鬼と――なる事を。


「開幕直後より鮮血乱舞。烏合迎合の果て名優の奮戦は荼毘に伏す! キ、キキ、キキキ、キキキキキキキキキキキキキ―――キキ、キ、キ。ひ。ひひひ、あははははははは! 燃やせ…焼-も-やせ、熱-も-やせ……灼-も-やせ」


彼女が言葉を紡ぐ度に、世界は、蝙蝠達は燃えていく。

しかしそれは炎や火や光によって燃えているのではない。

むしろその真逆。


「痛覚はまだ生きてる? 脊髄はまだ存命? 脳漿はこぼれてない? そう、いい子ね。息耐えるまでの空白を、絶望で走り抜けなさい」


彼女は左手に手刀を作る。

世界を燃やし、蝙蝠達を燃やす熱が其処へ集中する。

全身を駆け巡るエネルギーが左腕に収束し神の概念を具現化させる。彼女の左腕が青白い光を放つ焔に覆われる――

それは全ての熱量を喰らい尽くし否定する負の無限熱量!






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