星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-
□第7話
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「ほぅ……これはこれは」
ふと感じた感覚にズェピアは声を発した。
「……どうしたんですか?ズェピアさん」
「いやなに、少々虫の知らせがしたように思えたが、私の気のせいだったようだ。ゆるりと休まれよ、我が主よ」
珍しく何かに意識を向けたズェピアを不思議に思うすずかをやんわりとだがはぐらかし、ズェピアはバルコニーから見える虚空に閉じた目を開けて視る。
「長年物語を紡いできたが、役者にではなく舞台そのものに攻撃されるのは初めてだ。いやはや、これはいわゆる所の舞台ジャック、とでも言うべきものかな?」
ズェピアの紅い瞳は虚空に在り、堕ち逝く鋼色の巨人を捉えていた。
「……舞台ジャック……いや、これは割り込みというやつかな。本来ならばこの様な無粋な輩は赦すべきではないのだが、相手が悪いらしい。それに、こういったイレギュラーも即興劇には良い刺激になるだろう。さてはて――」
ズェピアは鋼色の巨人から目を離して自らが仕える主に目を向けた。
この小さくも儚い夢を見て闇を呼び出した真祖の姫。
「観客になるのは実に五百年ぶりだ。私に代わって脚本-ほん-を手にした者がどれほどの演出家か、楽しませてもらうとしよう」
仮にも、書き割りのような一片に過ぎない自分だろうとも、死徒を世界を超えて呼び出した血とその潜在的能力に、そして久しぶりにタタリとなる前の探求者にして演出家だったズェピア・エルトナム・オベローンとなってしまったからだとはいえ、興味と愛敬が尽きないこの姫に仕えるのは悪いとも思わず、そしてそんな姫と英雄がこれから望むだろうドラマに心を興味へと突き動かされる。
「フッ、私は実子には恵まれなかったが、養子というのもなかなかどうして、悪くはないのだろうか」
ズェピアはすずかの髪をひと撫ですると闇の中へと溶けた。
脚本家として演出家としてやらねばならない事があるからだ。
かつて世界に挑んだ自身の力――その何十分の一もない自身の力でも、世界の在り方を覗き見れる。
そしてこの世界の歪みを視た時には、正直笑うしかなかった。
魔法に満ちた可能性を秘めたこの世界は、なかなかどうして邪気と愛執と絶望と渇望と羨望と魂に満ちた優しくも残酷なこんがらがった世界だった。
しかし向こうと違い、こちらの世界の絶対運命とやらは3人の御子を既に見定めているようだ。
絶対の中の一つの希望。
世界は救済を望み、3人の少女達がその声に答え力を得て戦う。
少女達のグランギニョル。
それがこの世界の根底にある舞台装置だった。
ならば脚本家として、下からあった舞台を壊さないままに脚本に手を加えるのもまた一興。
この物語の主人公はあくまでも、彼の剣士の彼とそれを取り巻く少女達ではなく。
ひとりの異彩の錬金術師-アルケミスト-と、それを取り巻く少女達なのだから。
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