星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-
□第5話
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「弱りましたね……」
なのはは顎に指を添え、まるで探偵のようなポーズで思考をめぐらせていた。
なのはの目の前の机には何枚もの紙が散乱している。
なのははくい、と中指でズレた眼鏡を押し上げる。
掛けているのは赤色の眼鏡。実のところ、本の読み過ぎと研究のし過ぎで目を悪くしてしまったのだ。
右は0.5、左が0.8。数値だけならそうでもないが、なのはは近視遠視乱視のジェットストリーム・アタックを患ってしまった為、日常生活と御神流の修業以外では眼鏡着用を余儀なくされているのだ。姉・美由希はお揃いだと喜んでいたが、兄・恭也に「眼が悪くなったのに喜んでどうする……」と呆れ半分にツッコミをいれていた。
そんな悩むなのはは、アリサ・ローウェルの器についてだ。
なのはにとっては初めての友人へのプレゼント。しかも相手は文句なしの美少女。
そんな相手に半端な物はあげられない為、なのはは悩みに悩んでいる。
前世も含めて研究している魔術と錬金術で素体を試作していくが、出来上がるのはどれもこれもSAN値直葬級の名伏しがたいナニカ。
しかしそれは魔術も錬金術も、前世の時は殆ど概念的で空想的なもの。それに今世で使えるようになった魔力を原動力にして強引に行使しているのだ。
錬成出来るだけでも奇跡。ある意味魔法-マジック-だ。
しかしそれは奇跡と言うにはお粗末なものだ、魔術よりも酷いだろう。
だが物理的に作るのでは時間もお金もかかる。オカルト教団や邪神崇拝教団の所属でもなんでもないなのはには尚更だ。
「やはり、今は代案でやるしかなさそうですね」
なのはは机の上の紙を纏めて別の紙を取り出した。
「私は別に「根源」に至る目標なんてない魔術使いですが、友人が生を再び歩んで行けるような『奇跡』-マホウ-くらいは起こしてみたいのですよ」
魔術を理解し理論を綴り、魔術の助けをもって錬金術を行使している『彼』にも願いがある。
『魂の物質化』を行う奇跡は『彼』の究極の願いを叶える為に必要な物である。
しかし聖杯なんぞ存在しないこの世界では、第三魔法も自力でやらなければならない。
霊の物質化――
聖杯という物があるからこそ出来る魔術だが。聖杯の無い世界で霊を物質化させるとなれば、それは本物の奇跡-マホウ-だ。
魂を情報化してコピーするという方法もあるが、それは果たしてオリジナルたりえるのか、オリジナルの全く同一の別存在ではないのか、その辺りのはっきりした確証がないなのはには、アリサの魂を器に定着させるか、直接物質化させる以外の行動を取れずにいた。そして比較的まだ簡単である器に定着させる方法も、器自体が完成が遠退くばかり、独学者だが世の中のシステムの手強さを思い知っていた。
いつもの風景。いつもの日常。いつもの変わらない時間。有限の不変の中。
されど2人の魔術師と錬金術師は日夜研究を続ける。
それは大切なモノの為に、自らの欲望の為に――
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