星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-

□第2話
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月村すずか――

高町なのはの兄・高町恭也の恋人である月村忍の妹。

控えめで大人しい本好きな少女。

そんな少女がなのはに話しかけてきたのだ。

なのはが独りぼっちだったのは、確かになのは自身のメンタルもあったが、第一に、大導師の教えに従いシュテル・ザ・ディストラクターを演じていた彼女は冷静沈着、裏を返せば無表情。

7歳、6歳の子供からしたら気味が悪いものだった。

故に誰も近寄らなかったのだ。

それを判っていたなのはは休み時間の度に、子ども達に配慮して教室から出ていたのだ。


「…私に、何かご用ですか?」

「あ、えと、そ、その本」

「これが?」

なのはは自身が流し見ていた電子工学の本を閉じてタイトルが見えるようにする。

ここは大学附属とあって図書室の蔵書も多種様々で、こういう本も探せば見つかる。


「つ、つぎ、か、かして」

「別に今でもよろしいですよ」


遠慮がちに言葉を紡ぐ彼女に、なのはは本を差し出す。

もとよりそこまで真剣に読んでいた本ではなかったからだ。それに月村すずかは姉の影響で機械関係に興味を持っていたと記憶していた。


「い、いい、の?」

「別に構いません。では」


なのはは踵を返して図書室から立ち去ろうとする。
もう昼休みも終わるからだ。


「ま、待って!」

「まだなにか?」

「い、一緒に、教室…」

「……本気ですか?」


他の子ども達から避けられているなのはからすれば、自分と月村すずかが関わってなにか要らぬ事が起きないかもしれないと危惧している。

しかし彼女は態度はビクビクしていたが、眼だけはなのはの眼を見ていた。

本当は気弱である性格を演技で誤魔化しているなのはは、控えめというよりは気弱に見える彼女にどこか近親感を感じて、少し表情を和らげてから告げた。


「本を借りてくるのでしょう? 時間もありません。早く借りてきてしまいなさい。私はここで待ちましょう」

「う、うん!」


なのはの言葉に頬をほんのり染めて嬉しそうに頷いた彼女は、パタパタと本を抱えながら受け付けまで走っていった。

他人に声を掛けること、その対象が自分ならかなりの勇気を振り絞ったはずだ。

そんな彼女の勇気を想えば無碍にするというのは無理な話しだ。


「お、おまたせ」

「では行きましょうか」

「うん」


なのははすずかを連れ立って教室へと戻る。

その道中でなのははふと思った。


「(そう言えば、こちら側で初めて笑いましたね)」


同族親愛ではないが、昔の自分に似ている雰囲気でも一歩を踏み出せる勇気を持つ彼女を、なのは少し羨ましく思った。






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