あいとゆうきとむげんのかなたへと
□第三話 その背中を追いかけて
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翌日の放課後。
ブルーティアーズはすっかり元通りになっていた。
確かにズタボロだったが、完全にぶっ壊したのは腕と脚部、BTとインターセプター故に予備のパーツで修復が間に合った。
セシリア自身も特にケガは無い。斬られた感触はあったのに痛みはあの時だけだった。保健室で目が覚めた時には痛みも無かった。
つまりのところかなり手加減されていたという事だ。
機体性能では勝っていただろう。敗因は完全に舐めきって油断していた自身だ。
さらにこの日本で帝国斯衛軍を侮辱したのにもかかわらず彼女にお咎めは無かった。
斯衛ならば打ち首物、でなくても本国に強制送還。
そうならないのは透夜が直接に裁断したからだ。
仮にも帝国斯衛軍の最精鋭第16大隊所属の中尉だ。
そして世界で2人しか居ない男性IS操縦者。
あれだけ派手にパフォーマンスをしたのだ。素人目には断罪に十分に見える。
あれがシステム的に致命傷で無いのをわかるのは、ブルーティアーズの整備班とか熟練の衛士とかだろう。
今彼女は白式を纏った一夏と相対していた。
しかしもう油断も隙も無い。あるのは期待。
魅せられた圧倒的な強さ。
そして目の前の男はあの織斑千冬の弟。
ブリュンヒルデの弟はいったい自分に何を魅せてくれるのか。
彼女の目に燃える炎を見れば、どれほど本気でこの試合に臨んでいるかわかろうというものだ。
透夜の斯衛の誇りを守る為の勝利が、セシリアの目覚ましとなったのだ。
そして始まった二人の試合。基本的には特に語るべきこともない。
セシリアはハイパーセンサーで見える1人の人物を見る。
BTを2基のみ展開している為、その程度の余裕はあった。
まっすぐと此方を見詰める視線。
圧倒的な強さ。フルスキン越しでも感じた言葉に籠められた剛き意思。刻み込められた一瞬の死のイメージ。
未だに覚えているあの感覚は忘れられないだろう。
だから――
「あなたは私に、何を見せてくださるのかしら?」
BTを操作し、頭上を抑え、ミサイルで追い詰める。
回避先を予測し、スターライトMkVを撃つ。
白式に近接戦闘武装しか無いらしいが、インファイターにインファイトを挑む気も必要も無い。
いや、怯えているのかもしれない。
あの強烈なイメージが頭から離れない。
だから油断なく自分の戦いを組み立てる。
「(視ていてくださいまし、この私とブルーティアーズの本気の姿と言うものを――)」
もう一度だけ透夜の姿を見る。
帝国斯衛軍だと知られたからか、細部の装飾もしっかりしたものに制服は変わっていた。
伊達や酔狂で着ているわけではない。
彼はその背中に幾人もの想いを背負ってその場に居るという事が、今になってわかった。
「(私の目も随分と御飾りになったものですね)」
必死に攻撃を回避する一夏へと集中する。
BTのオールレンジ攻撃を回避し、ミサイルは切り裂き、スターライトのレーザーはブレードで切り払う。
非常識――とまではいかないが、ヒヤヒヤする。
白式は出力ならばブルーティアーズよりも上。直線に持ち込まれ、瞬間加速で踏み込まれ、零落白夜でも使われたらこのブルーティアーズでも墜ちる。
そう考えれば対処は容易い。
白式の直線に居なければ良い。常に位置を移動し、すべての武器を効果的に使って相手の機動性を封じる。
しかしそれを一夏は驚異的な空間認識能力で回避する。ISでの戦闘が二回目とは思えない。
「認めましょう。あなたもIS操縦者であることを」
男だ女だと関係ない。
セシリアは今、1人のIS操縦者として一夏を見ていた。
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「(強い。まったく踏み込む隙が無い…)」
頭の中で機体の回避をイメージする。
思い描くのはネクストの機動。
透夜との一週間の激戦は無駄じゃ無かった。
未だに直撃を受けていないのがその証拠だ。
それに透夜に言われたこと。零落白夜は相手に必ず攻撃が当たると確信し、攻撃が中る瞬間に展開するように言われた。
エネルギーが厳しい白式で少しでも長く戦う為の知恵を貰ったんだ。
「(タイミングはとっつき程シビアじゃないはずだ。踏み込めさえすれば勝てる!)」
セシリアも透夜戦で本気になったのは動きを見ればわかった。
動きの切れも反応速度、BT制御の感覚、攻撃法。
ハイレベルな攻撃を直撃させないようにするだけで精一杯だ。
直撃しないからとはいえ、掠ってじわじわ削られて行く。
一か八か――
「驚嘆に値しますわね。とてもISの戦闘が二回目とは思えませんわ」
「イメージトレーニングはかなりやったからな。それに2基のBTの攻撃ならハイパーセンサーの全天視覚で避けられる。後方危険円錐域-ヴァルネラブルコーン-に気を配れば、直撃くらいは回避出来るさ! それに!」
「っ!?」
真後ろから迫ったBTの1基をブレードで両断する一夏。
攻撃が乱れた。一瞬だが確かに感じた感覚に――
「瞬間加速-イグニッション・ブースト-!?」
「俺は、教えられてばかりで、守られてばかりで――」
セシリアは急加速した白式へスターライトMkVと残る2基のBTを自身の周りに展開し砲台として弾幕を張る。待機命令のまま浮かせて攻撃命令だけならばこれくらいは可能だ。
しかし直撃を受けようとも白式は止まらない。
「俺には透夜みたいな誇りはない。だけど!!」
「くっっっ!?」
セシリアの中で焼き増しされる光景。
何故。
同じ男で同じ白い機体。たったそれだけなのに――!!
被る。
彼らの姿が。
「俺も、俺自身の意地を貫く!!」
気づけば一夏は間合いにセシリアを捉えていた。セシリアが近接戦闘が得意で無いのは昨日の試合でわかった。
昨日の放課後、透夜に頼んで遠距離系の機体と戦った、VOBミッションをやりまくった、とっつきとブレードのみでプレイした甲斐があった。
タイミングはバッチリだ!
「零落白夜!」
「っ!!」
完璧なタイミング、己の一番の間合いで一夏は一撃必殺の一振りを奮った。しかし――
「ふふっ」
「っ!?」
セシリアはブレードを奮った一夏の向かって右に周り込んでいた。
一夏が透夜から一週間学んだように、セシリアもあの戦闘での一瞬で学んだ事がある。
強烈なイメージ故に脳裏に焼き付いていたから、今の一撃を避けられた。
透夜の一撃に比べれば、一夏の一撃は止まって見えた。
故にその瞬間だけ、その瞬間の間に、セシリアはいつもの自分を取り戻した。
透夜の一撃からこちらを見る透夜を幻視した。
視てもらいたい。本気の自分達を――
「真似事はあまり趣味ではないのですが――」
「しまっ――!?」
一撃が見たのは零距離でスターライトMkVを突きつけ、2基のBTと弾道型の2基、5門の砲口が自身を完全に捉えた光景。
「乱れ撃ちますわぁぁぁぁああっ!!!!」
容赦のないフルウェポンズ・フルバースト。
至近距離で爆風を受けようとも、セシリアは狼狽えずにトリガーを引き続けた。
『勝者――セシリア・オルコット!』
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