あいとゆうきとむげんのかなたへと

□第一話 主人公は苦労人お兄様
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人生山あり谷あり。

絶好調、絶不調。

勢いあれば五月病の如くヤル気が起きない時もある。

理不尽や不条理に立ち向かい、時に勝ち、時に負ける。

そんな俺も、理不尽にファースト人生を終了させた。

バイトで貯めた給料を使って瀬戸内海に来てたんだが、まさか旅行先で交通事故に遭って海にドボンはないだろう。

旅行先までPS3持って行って、ACfaで乙を何度も水没させたからか?

まぁ、それは今は良いとして――

背中に突き刺さる視線という視線。

しかもなんというか、猛禽類に睨まれているような感覚に頭とか首筋が痒くなっていく。

しかもその注目してくる相手が全員女子とくると、どう反応すれば良いんだかわからん。

俺は別に神様やら死神に逢ったわけじゃないのに、俺はどういうわけか転生――いんや、憑依か、それとも10月22日生まれだから因果の流入とか?

ともすれば、炭素型生命体が大挙を成して侵略される世界とかに吹っ飛ばされたりしなかったから、まぁ、良かったなぁ〜。

それと引き替えに、世界中から注目される立場になってしまったんだけども――

まさか物語りの世界に自分が居て、しかも20になってまで高校生やり直しのハメになるとは思わなかった。


「(そしてこれは、思ったよりも辛い……)」


注目されることにを慣れていない俺からしたら、しかも雑多な香水の香りも手伝って、プレッシャーとキツい香りから気持ち悪くて頭がクラクラしてきた。てか本格的にヤヴァイ……。

だーが、自分は特別になってしまった。

未発表だけれども、世界で初めての男でのIS適合者だと自慢して言える。自慢する気もないけど。

世間では二人目だ。

3年前に、たまたま打鉄をみょんな事から起動させてしまった俺は、1年間のモルモット生活、半年を復讐、一年半の軍隊生活を経て、21歳にしてIS学園の一年三組に在籍する事になってしまった。

吐き気を我慢しながらわたくしこと、竜宮透夜は席に着いていた。

世界初の男性IS適合者はここから2クラス先にいるから、こういった視線を分ける相手がいない。

年下しかいない三組での居心地は最悪で悪かった。


「次、竜宮透夜君」

「は、はい!」


まるでバネが伸びるようにビヨンッ!と立ち上がった俺にこちらを見るクラス全体の視線や眼光がさらに強まってしまい思わず赤面してしまう。頭が噴火しそうだ。


「え〜…あー……コホン…!」


とりあえず咳払いして、後ろへ振り向く。何故ならば、俺の席は教卓から見ての右一個隣りの一番前だからだ。


「竜宮透夜と言います。特技は炊事洗濯掃除と記憶力。みんなとは5、6歳離れているから場違いで戸惑ってて、第一こんな女子校みたいな場所に居て変態扱いされないか日々恐々と過ごさにゃならんことを考え――」

「え、えっと、竜宮君?」


担任に声を掛けられて熱暴走してた頭が瞬時に冷えた。



「「「………………」」」


沈黙が痛いです。ありがとうございます。


「(死にたい……)」


二度目の高校デビューは無様に始まった。

年下の女子に囲まれている上に、男子が俺1人という黒一点な状況が唯一の言い訳材料だが、暴走と混乱の上に頭が真っ白になって自分の過ちに恥じて呆けている様はさぞかし無様には違いない。

もうわけわかんなくなってきて、しかも頭の中がぐるぐるして、さらにもって目眩も起きて――


バタンッ……――


「きゃーーー!!」

「た、たたたたたたったたっ!」

「竜宮君!? しっかりして! 竜宮君!?」


拝啓。

大尉、教官、整備班の方々。

お元気でしょうか?

初日からプレッシャーに負け、倒れてしまうような柔い小官をお許しください。

そしてわたくしは一組の唐変木を少しだけ尊敬します。





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極度の緊張からくる意識のブラックアウトで目が覚めたら保健室だった。

俺は神輿を担ぐ側の人間だから、ああやった注目される事を嫌う。

気持ち悪くなって最悪胸が動けなくなる程に痛むチキンハートの持ち主だ。

それに戦闘の緊張感とはまるで違うから、経験値もまったくない。これから大丈夫だろうか。

もう昼だ。記憶していた時間割と照らし合わせてみれば、あと10分ちょいで昼休みだ。

初日から午前中の授業をサボるとは、ツいてない。

幸いにしてISに関しての基本的な知識は全部頭に入っている。モルモット故にISに関するイロハは直接頭にぶち込まれたから、ちょっとくらいの遅れはなんとかなるかも。

綺麗な空気のお陰で、気持ちの悪さもない。

汗と土とオイルに血の臭いなら馴れてるんだけどなぁ。

先生に断りを入れて保健室を出る。

胃がキリキリした感じもないし、お腹も空いたし、丁度昼だし、IS学園の食堂の味とやら、食す価値があるとみた!

三年も切らずにいる髪を揺らしながら俺は早足で食堂へと向かった。





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チャイムとほぼ同時に入ったとあって人は少なかった。

ちなみに俺の制服はあいとゆうきのおとぎばなしの帝国斯衛軍の白を着ている。

俺は別に普通の、織斑一夏が着ているような制服でよかった。

しかし、俺の周りの人達が満場一致で反対した。

斯衛軍人として恥ずかしくない服装をと、この白服を渡された次第。

しかも殿下のお下知なれば、断る術は無し。

つまりそういうことで、俺は学園随一浮いた格好をしている。とはいえ、IS学園の制服に見られるように改造はされているから、普段斯衛服を見慣れてなければなかなか気づかない程度の面影しかない。つまり普通に視ると厨二病なヘンテコ制服に見えなくもない。

盛り蕎麦を注文して端の席に向かう。

眼鏡を外して食事開始。冷たい蕎麦が喉を潤し胃を冷やしながらその量を減らす。


「なぁ、あんたもここの生徒か?」

「んあ?」


蕎麦を口に運ぶ途中の姿のままに声の主を向く。バナージヴォイスで分かり切ってるんだけどね。

声をかけてきたのは男性正規IS適合者一番目、織斑一夏だ。


「そうだけど、君は?」

「あ、俺、織斑一夏。こっちは幼なじみの」

「ご無沙汰しております、竜宮さん。いえ、先輩と言った方が正しいですか」


一夏の一歩後ろにいた少女、箒は礼儀正しくそれでいて親しみのある声色で頭を下げる。


「久しぶり、箒。別に前通り『さん』でいいさ」

「え? なに? 知り合いだったのか箒? しかも先輩?」

「竜宮さんは19だ。少なくとも私達よりは年上だ馬鹿者」


そう、俺のみょんな出逢いだった。だがあれからもう3年か。逞しくなったな、色々と。だが――


「しののんさん、俺は20で今年21なんだけどな〜」

「っ、す、すみません……」


指摘された箒は頬を赤らめて謝ってくる。ホント、かあいいなぁ〜。


「まぁ座りなさんな。メシが冷めるぞ?」

「あ、あの。すいません。いきなりタメ口なんか」

「別に気にしなくていいよ。学年は一緒だし、同じ肩身が狭い境遇だ。ま、三年間よろしく」

「「はい!」」


返事を返してくれた一夏と箒に軽く頬を緩ませながら俺は食事を再開した。






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