勇者王ガオガイガーFINAL/Brave
□Brave 01
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街を歩く1人の人物が居た。
その人物は黒いコート姿で、頭に銀色の輪っかを付けた黒い帽子を被っていた。
コートだけならまだしも、そんな街中で浮くような格好をしている彼こそ、いくつものバイオネットの秘密基地を壊滅させた人物、星乃 輝美である。
赤くしなやかな長髪を靡かせながら歩いていく様は、端麗な容姿と相俟って、道行く人々の何人かが彼を振り向いている。
「(今日は……冷えるな…)」
輝美は今、バイオネットの追跡から逃れる為、故郷である日本の地を踏みしめていた。
もう6月だというのに、異常気象によって梅雨時期の日本では季節外れの雪が降り積もっていた。
無論、今その真実を知っているのは誰一人居ない。ここに居る彼を除いては。
来年、2007年7月には宇宙の存亡を賭けて勇者達が戦うと誰が想像出来ようか。
「……俺には、あまり…関係ない、な」
たとえ真実だろうとも、伝えられない真実なんて世の中にいくらでも存在する。
予定調和かもしれないが、勇者達の勝利と帰還を信じる彼は、バイオネットの眼を少しでも自分に引きつけることに全力を注いでいた。
輝美はサイボーグであるが、GストーンもJジュエルも、ましてやZメタルも有さない普通のサイボーグだ。
バイオネットによって改造手術を受け、その経緯から人間を上回る戦闘能力を得たとはいえ、サイボーグ・ガイやソルダートJには格段に劣る。
それでも、自身より強大な敵と戦うのは、バイオネットが赦せないからでもあり、自分のような人生を失ってしまう人間を増やしたくないからだった。
正義感はあっても、勇気がなかった輝美は、今まで自分の力ではどうにもならない理不尽には極力不干渉だった。
自分に解決出来ることしか解決しない偽善者だった。
だがある日のことだった。
信号を無視して突っ込んできた車に跳ねられ、気づいたら三重連太陽系の赤の星で再び生を受けたのだった。
そして機界昇華される第2の母星を目の前にして、青の星・地球に逃れてきた。
だがその現場に偶然にも居合わせてしまったバイオネットによって捕らえられ、様々な研究と実験と、先に上げたサイボーグ手術を経て、今に至る。
赤の星を、知っていながら滅びの道から救えなかった代償行為として、真の故郷である地球の為、傷つき死する可能性すらある無謀とも言える戦いに挑む決意をさせた。
そんな彼であるが、なにも1人で戦っているわけではない。
如何にサイボーグとなろうとも、心までは変わらない。
平和主義で非暴力的、ヒーローに憧れるが勇気がない軟弱な青年。
そんな彼が戦うのは、やはり勇者への憧れも大いにあるが、他にも理由がある。
それは――
「ただいま」
「おかえりなさい」
ドアを潜り、ワンフロアの小さな個室に入った輝美は、出迎えてくれた相手の頭を撫でた。
「……やめてください。髪が乱れます」
「や、ちょうど良いところに頭があるもんだから、つい」
赤毛の髪の美少女。赤の星の指導者アベルより輝美が託された命。
アベルが自身をモデルとして造った生体兵器、アルマのプロトタイプ――アベルの娘とも言える存在。名はフィーリア。
外見はパルス・アベルその物だが。しかしその心は正反対で、命を慈しむ優しい心を持っている。
輝美がバイオネットと命を懸けて共に戦う仲間だ。
しかし彼女には直接的な戦闘能力はほぼない。テレキネシス能力もアルマ程強い物でもない。
だがフィーリアは輝美のカラダのメンテナンスを始め、様々な面で輝美と共に戦っている。
互いに足りない部分を補い、支え合っているからこそ、絶望的な戦いに輝美は赴く事が出来るのだ。
かつて視た、勇ましきソルダート戦士たちのように。
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翌日、輝美は高速道路を走っていた。
この時間にバイオネットの輸送計画がある情報を、前回の秘密基地襲撃時に掴んだ為だった。
塵も積もればなんとやら、たった2人で戦っている輝美とフィーリアには、こうした小さなことからやっていくしかなかった。
トレーラーの列の後を追えば大抵はバイオネットの秘密基地や秘密研究所へと案内してくれる。まぁ、7、8割の確率で外れをつかまされるのは国際犯罪組織といったところだろう。
そして今回は薄々思った通り、外れをつかまされたらしい。
高速道路を降りていくトレーラーを追うと、トレーラーの荷台の扉が開いた。
中から現れたのはバイオネット製のアンドロイドの大群だった。
それも10や20でなく、一台から30体くらい出て来た。
「多すぎるだろ、これ……」
それなりに場数を踏んできた輝美も、この数の暴力には顔を引きつる。
トレーラーは20台は走っていた。
そこから約30体のアンドロイド。
単純計算で600対1の戦力差だ。
『戦力差がありすぎます。ここは一時撤退するべきです』
「それは……出来ないさ」
通信で届いたフィーリアの提案を拒否する輝美。
逃げられるなら逃げたいものだ。
しかし自分が逃げたらこの600体のアンドロイドは、次は何をする?
いやらしくも首都高の出口から降りてしまった為、周りは人口密集地だ。
今も、アンドロイドの大群に、人々は我先にと逃げているが、混乱と恐怖によりまともに逃げられていない。
トレーラーを追うことも、逃げることも出来ない。
何の罪もない人々を見捨てたとあっては、輝美は二度と太陽の下を歩く事は出来ない。
特別な力なんて何一つ持ち合わせていなくとも、バイオネットの暴挙に怒りを感じ、自分と同じような不幸な人間を増やさないように、バイオネットと自らの意志で戦う。
それを蛮勇とは言わない。
強大な困難に懸命に立ち向かおうとするその姿は、間違いなく『勇気』ある者の姿だった。
「イーークイーーーップ!!」
帽子の輪っかに指を通し、180度帽子を回転させる輝美。キレイな輪郭を描いていた鍔が後ろに周り、前に回ってきた鍔には切り込みが入っていた。
マイクロESウィンドウを通って現れたアーマートランクから、輝美の身を守る為の鎧が射出される。
両腕と両脚には鋼の輝きを、胸と腰には純白の輝きを放つ鎧が装着された。
さらに身に纏っていたコートは背面へ大きく展開し、翼のような形状を取る。
輝美も生身の部分を持つサイボーグであるが故に、冷却コートを身に着けなければならない身体なのだ。コートはこの状態においては放熱装置としての役割を果たす。
星乃 輝美はIDアーマーを装着することによって、戦闘形態へと移行するのだ。
「さぁこい! 1体残らずジャンクにしてやるよ!!」
戦闘形態へ移行した輝美は、アンドロイドの大群と対峙した。
「プラズマッ、ソード!!」
右腕の腕甲より発生したプラズマの刃でアンドロイドを斬り裂いていく。
アンドロイドは戦闘員より防御力や携行火力に優れる分、AI制御の為、動きが鈍いのだ。
しかしそれを数の暴力で解決してしまえばこうも厄介なものかと輝美は思った。
斬り裂き、蹴り飛ばし、殴りつけても、バラバラにしない限り再び起き上がって、或いは這ってでも押し寄せる様は軽くホラーだ。
「くっ、数が多すぎる!」
輝美は背中の変形したコートから緑色の推進光を放ち、空に飛び立つ。
アンドロイド達がマシンガンやライフル、ロケットランチャーなどで攻撃するが、それはことごとく回避される。
「プラズマアロー!」
輝美は左手を手刀の形にした左腕をアンドロイド達に向けて突き出した。腕甲からプラズマの矢が放たれ、アンドロイド達を撃ち抜いていく。
「いけませんね〜」
「っ、その声は!?」
突如として輝美の耳に聞こえた声は、知らずとも識っていた声だった。
黒い尖った帽子と、黒いマントで身体を包み、顔にはピエロの顔のような仮面をつけた魔法使いのような格好をした存在。
「ギムレット! どこだ!? どこにいる!!」
バイオネットにおいて作戦指揮官として優秀な男。
その作戦は時としてGGGにも手痛い打撃を与えるものもある。
アンドロイドの何百倍も警戒しなければならない相手には間違いない。
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