星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-

□第17話
1ページ/4ページ


「うっ……ぁっ……」

「なのは!?」


ベッドに横になり、意識の回復したなのはを覗き込むのはアリスだった。


「…アリ…サ……」

「どうかしたの? 私はここよ」


震えながら腕を上げたなのはの手を取るアリスの声は不安げだった。


「…からだが、いた…い……」

「無茶したからよ。急激な変化に魔術回路が悲鳴を上げてるの。最低2週間は絶対、回路に魔力は通しちゃダメよ」

「…わ、かり、ました……」


よっぽどの激痛が激しいのだろう。あのなのはも眼が潤んでいるほどだ。


「す、ずか…は…」

「彼女も同じよ。隣りで寝てるわ。なのはよりは元気よ」

「…そう、で…すか……」


それを聞いて安心がいったようにベッドに身を沈めて、なのはは再び眼を閉じた。

眼が覚めたのも一時的で、相当疲れもダメージも残っているのはわかる。

アリスは再び寝息を立て始めたなのはの頬を撫でた。


「行かないのかね?」


隣りですずかを看ているズェピアが呟くように言った。


「サーヴァントが主の傍を離れたら本末転倒よ。それに――」


なのはとすずかの眠る部屋の窓から見えるのは、世界から切り取られた海鳴市の風景。

そこには街を破壊するドラム缶のようなロボット。

なのはとすずかの仕掛けた結界の作動の出来映えを、それぞれのサーヴァントは感じていた。

そして空に描かれる五芒星を視ても、2人が慌てる様子もない。


「あの手のロボットの相手は、『今』の私と貴方では相手をするのは骨。であれば、適材適所に任せるのもまた手。そしてこの街を護る正義の味方にも強くなってもらわないと」


なのはとすずかは十分強い。だが、一番首を突っ込んできそうな者が弱くては話しにならない。

ここはピンチを迎えてでも強くなってもらわなければならない。

どちらにせよ、マスターからの魔力供給が出来ない今の2人では、本当に戦闘機並みの戦闘力しかない。

なのはとすずかという魔力供給の元があればこそ、2人は通常のサーヴァントをも超える戦闘力を発揮出来るのだ。





=====================


少女の手に握られた一本の剣から風が溢れ出す。

鍔や柄に緑色の宝玉で飾り付けがされている。金属粒子レベルのサイズで刀身に呪符文様が描かれている。

そして何よりも、アリサには推し量れない程強力な風の加護を授けているのだ。

そして風は少女とアリサとアルを包み込んで、何者をも吹き飛ばすように爆裂する。

爆裂した風の中心――少女から天に向かって眩い光の柱が昇る。

そこに浮かぶは招喚陣。

複数に組み合わされ、いくつも、幾重にも重ねられて魔法陣が描かれていく。

そして響き渡る聖句。

其れは人の手で造られし最弱無敵の鬼械神を呼び寄せるもの。

其れは幾度となく唱えられてきた祈りの祝詞。

其れは邪悪を討ち滅ぼす誓約の言葉。


「憎悪の空より来たりて――」


何も無いはずの虚空に、たった今、途方も無い質量の気配が生じた。


「正しき怒りを胸に――」


そこに在り得べかざる物質が、存在する無限小の可能性。限りなく『0』に近い確率が集約され、完全なる『1』を実現する。


「我が手は魔を断つ剣を執る!」


巨大な何かが、強大な力を秘めた何かが、今、顕現しようとしていた。


「汝、無垢なる刃――デモンベイン!! 」


空間が圧倒的質量に弾き飛ばされ、粉砕した。

急激な気圧の変動が、突風となり稲妻を伴って吹き荒れる。
虚空に飛翔する、圧倒的なその威容。

刃金を纏い、人間の為にその力を振るう鋼鉄の巨人。

それは大地を砕きながら膝を突き着地した後、ゆっくりと立ち上がる。

輝く2つの眸が、破壊ロボを見据える。

その眸はまるで意思を宿しているようで――

それは果たして錯覚か?

否、それは断じて錯覚ではない。

旧き神の剣にして、魔を断つ無垢なる刃。

人間の為の機械仕掛けの神-デウス・エクス・マキナ-。


「デ、デモン――」

「デデデデデデ、デモデモ、デモンベインだとおおおおおおおおおーーーー!?!?」


少女が招喚したデモンベイン。

破壊ロボに対峙するデモンベイン。

そのボディは、本来のデモンベインの機体色に加え鋼金色が目立っていた。

無限螺旋の復讐者が招喚するアイオーンを足したように鋼金色だった。

顔も鋼鉄のマスクが被せられ、鋭い翡翠の二眼が、破壊ロボを睨みつけていた。

しかも脚部シールドは後ろ腰に移動し、両腕にも巨大ブレードが追加されている。

正当ではない無垢なる刃。だがその剣もまた、魔を断つ剣-DEMONBANE-だった。





=====================


「こ、ここって……」

「予想通り、デモンベインのコックピットだ」


アリサが居るところより上の方から声がした。

そこには黒いピッチリしたボディスーツに身を包んだ少女が居た。

腕には操縦桿を着け、周りにはモニターらしき物も見える。そしてなにより自分が座っているのは、バイクのハンドルがついている座席。

デモンベインのサブシートだ。


「ちょ、これホントに――」

「喋らない方が良いよ。――舌を噛んでイタいイタいなのですよ♪ にぱ〜☆」


いきなり雰囲気を変えてそう言いながら笑顔をアリサに向ける少女だが、眼だけが笑っていなかった。


「おのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーっ!! 我輩を前にして梨花ちゃまぶってみたりパチコン(パチモン)デモンベインなんぞ喚びおって!! デモンベインは元祖とトゥーソードだけで十二分である! 今更オリデモベなんかお呼びじゃねーんだぜこんちきせう!! その偽物を晒したことをお日様仏様が許しても、デモンベインの永遠の宿敵たるこの我輩がスクラップにして昨日出し忘れた資源ゴミと一緒に燃えるゴミの日に出してくれるわ!!」


ドクターウェストの叫び声に合わせ、破壊ロボのドラム缶ボディが展開し、様々なアームとなってしかも、ドリルにドライバーにトンカチ、ノコギリ、ドリル、チェーンソウ…ectect.

多種多様様々な工具が握られていた。


「ヒドいのですよミスター・マッドサイエンティスト。この機体も、デモンベインなのですよ」


そう言う少女の言葉に合わせ、デモンベインもファイティングポーズを取る。


「有り得ん、有り得んのである!! デモンベインは2機で十分である!!」

「それはこの戦いで証明されるさ。往くぞ、デモンベイン!」

「くっ、ならば精々見せてみるが良い! 我輩の宿敵、デモンベインの贋作よ!!」


破壊ロボとデモンベインに闘志が宿る。

工具を掴むアームを構える破壊ロボと、拳を構えるデモンベイン。

両者は睨み合いながら動かない。

そして永遠にも感じる刹那の間――

最初に動いたのは、デモンベインの方だ。


「それでは――デウスマキナ・ファイト!」

「ほうほう、リアルでロボットなファイトであるな! ゴホン、ではでは。レディィィィーーーーッ!!」

「ゴォォォォーーーーッ!!」


開戦の狼煙が上がった。

街を激震させ、破壊ロボとデモンベインは疾駆る。


「はああああーーーー!!!!」

「秘技! ザ・クラッシャァァァァーーーーッ!!!!」


工具とアームでデモンベインの拳を受け止めた破壊ロボ。


「ぬあっはっはははははは!! やはり所詮は贋作であるなパチコンデモンベイン!!」

「なにが、かな――?」

「ぬひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ――はい?」


メキメキと軋みをあげる破壊ロボのアーム群。


「な、なななななな、なんですとーーーー!?!?!?」


ズドォォォン!!と、轟音を立てて飛び散るアーム群。原因は一目明白、デモンベインの拳が青白く輝いていたのだ。


「――青龍鱗。私のデモンベインとはあまり組み合わない方が得策だ」

「おんのれぇぇぇぇ!! 隠し武器とは卑怯者めっ!!」

「いや、アンタのその工具とアームはなんなのよ」

「我輩のは工具であるからにして、武器ではないのであーる!」


すげー屁理屈だった。

その工具もマッドサイエンティストの手に今や凶器という名の武器となっている。


「卑怯で上等。でも――」


バラバラになって落ちる破壊ロボのパーツが、まるで壊れたビデオのようにノイズが走り、逆再生のように上に落ちる。


「戦場で過度のお喋りは命取りさ」


紫電を纏う右足を振り上げていた。


「アトランティス・ストライク!!」


まるで死神の鎌のように、振り下ろした。

爆裂する時空間歪曲エネルギーが破壊ロボを襲う。






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ