星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-
□第16話
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あの後、あたし達は連続飛び降り自殺現場のマンションの屋上に居た。
それを確認したら、すずかとなのはが倒れて急いで病院――じゃなくて、すずかの家に向かう事になった。
大人の躰に作り替えるという無茶をやったからだと、あの金髪の男――すずかの使い魔のズェピアは言っていた。なのはもケガは治っていたけれど限界を超えた魔力の行使と運用に魔術回路に異常負荷がかかって倒れたらしいと、あたしのそっくりのなのはの使い魔のアリスが言ってた。
2人してムチャクチャな次元に居るのはその説明でわかったけれど、やっぱりやりきれない。
確かにあたしが一番弱いし、一番頼りないし、一番戦う意志も欠けているかもしれない。
あたしはアリスみたいに誰かの為に戦ってない。最初の戦いは自分の為だった。
マンションに行ったのもすずかとなのはが巻き込まれたのと、あたしがマスター・オブ・ネクロノミコンになったから。
それだけの理由しか、力の無いあたしには戦うなんて無理なんだろう。
戦いの記憶を思い出すことはあれからはない。
なんでどうしてどうやって思い出すのかの見当はあるけど、もしそれが当たりだったらあたしは決定的に役立たずだ。
「ねぇ。アルはなんであたしと契約してくれているの?」
「なんだ突然」
マギウス・スタイルになってダウジングをしながらあたしはアルに訊いた。
確かに契約を結んだのはあたしからだけど、アルならいつでもあたしと契約を破棄できる。なのに――
「ふむ。まぁ、契約者がこの体たらくでは妾の頁はいつまでも集まらんだろう」
アルの言葉に言い返す言葉のないあたしは黙ってその言葉を聞く。
「だが現状で汝以外に適正な契約者が居ないのも事実だ」
「え、でもすずかやなのはは」
「確かに技術、技量、魔力は小娘等が上であるが、空気が合わん。それに高町なのはは妾のアイオーンをまったく別のモノに創り変えてしまえる小娘だ。そんなおっかない存在と悠々と契約なんぞ結べるか」
やっぱりあの時のなのはの姿は、デモンベインじゃないけど、鬼械神が関係してたらしい。
「鬼械神か――」
覇道財閥の無いこの世界にはデモンベインは無い。
アイオーンも手元に無いあたしは、もし鬼械神同士の戦いになれば完全に要らない子になる。
「なんとかならないの?」
「無茶を言うな。妾の写本があればまだしも、完全に抜け落ちた記述の復元にはかなりの時間がかかる」
やっぱりそう簡単には行かないか。
「……待って、なら写本を見つければいいの?」
「ミスカトニックの秘密図書館にありそうなクラスの代物でなければ意味がないぞ。鬼械神を再び有するなれば、最も古いギリシャ語版やラテン語版辺りが望ましい」
「んなのどこにあるっていうのよ」
つか鬼械神を有する魔導書となれば、デモンベインの作中で登場するアンチクロスやマスターテリオンの持つ魔導書くらいだ。
なのはならなにか知ってたりしそうだけど、これはあたしの問題だし、当分戦える見込みのないあたし自身が解決しないとならない。
「魔導書か……あら?」
「ふむ。どうやら当たりやもしれんな」
指から垂らしたダウジングの水晶が激しく揺れた。
細心の注意を払ってビルの屋上から反応のあった路地裏に降りた。
「確かこの辺りだったわね……」
ダウジングを頼りに意識を集中してしかし認識は拡散させる。
「アリサ、見つけたぞ」
「え? あ……!」
アルの声に導かれて見つけた物。
確かにアル・アジフの断片だろうそれはあった。
ビルとビルの僅かな隙間に挟まったバルザイの偃月刀を――
「シュールね……」
「言うな…」
まさかこんな形で見つけるとは思わなかった。
「とりあえず回収しない?」
「そうだな……」
やっぱり自分の一部がビルの隙間に挟まって動けない様子というのは多分あたしが感じる以上に本人には格好悪く情けなく映るのかもしれない。
「はぁ……アクセス。アヱテュル表に拠る暗号解読、術式置換。正しき姿に還れ我が断しょ――」
「ちょーーーっとまったぁぁ!!」
「にゃ!?」
「へ?」
不意に響いた声に集中が途切れた。
そして鳴り響くギターのシャウト。
「いやいやいや!! ちょっと待ったはコッチのセリフよ!!」
あたしはあまりの事態に思わず叫ばずにはいられない。
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