星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-

□第15話
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「っ! なんで邪魔をするのアリサちゃん! その子はアリサちゃん達を危険に巻き込んで」

「なにも知らない部外者がたれたれと人の主人を悪者扱いするんじゃないわよ!!」


一瞬で炎髪灼眼となるアリスの姿と、その言葉に込められた言霊に、アリサも高町なのはも気圧された。


「アナタに何が解るっていうの!? 気づいたら他人の身体で、しかもその身体は子どもの身体。家族が居て、その家族に偽り続け、娘を、妹を奪ってしまった罪の意識の重さ、その存在に待ち受ける過酷な運命を識っていてそれと向き合って背負う覚悟の重さを! 私の事を純粋に想って、独りだった私に居場所をくれた優しい『彼』という存在のなにがアナタに解るっていうの!?」


それはアリサ・ローウェルとしての怒りの叫びだった。

怒りながら泣いていた。涙を流していた。

アリスは喜怒哀楽の内で一番表現にし難いのは怒りだろう。

それは彼女自身、大人並みに成熟しているメンタルがそうさせるのか、ただ単に怒るといっても静かに怒るタイプであるだろう。

声を上げて怒鳴り散らした経験に覚えがない彼女をして、怒鳴り散らさずにはいられなかった。


「アナタがなんなのか私には判らないようにアナタは『彼』をなにも解っていない! 『彼』がなにを思って毎日を生きているのすら知らずに勝手なことばかりいけしゃあしゃあとっ!!」


感情が爆発するのに合わせるようにアリスの背中から顕れた紅蓮の双翼とそこから溢れる炎は世界を焼く。


「図々しいのはそっちだよ、アリサちゃん。その子は2人のアリサちゃん達やすずかちゃんを戦いに駆り立てる元凶を作る。だから許せない。その存在すべてが! 私の居場所を奪って、みんなを騙して、のうのうと生きるその子の存在が!!」


ドゥンッ――――!!

バキィ!


高町なのはの言葉が終わるか終わらないかの辺りで、世界を揺らすような爆発音が轟く。そして強かに何かを打つような音。


ズドォォォンッ!!


空中に居た高町なのはが地に墜とされ、空には眼下を見下ろし、背中から紅蓮の双翼を生やしたアリスの姿。その態勢は何かを殴る為に拳を突き出した後の姿をアリサは視た。


「……ハァ…ハァハァ…ハァ………勝手なことを言わないでって言ったでしょう…」


肩で大きく息を吸いながらアリスは感情を抑えようとする。

すずかが型月寄りの魔術師ならばなのははデモンベイン寄りの魔術師だ。

そしてなのはと共に魔術師となり使い魔-サーヴァント-となったアリスの魔術の心得は――

魔術とは感情を理性で制御し、たかぶる魂を魔力と融合させ、精錬、精製するものなのだ。

世界を塗り替え、書き換え、置き換え、創り変える。それが魔術と言うもの。

魔術は術式を理解するのも必須。

だがそれ以上に自らのイメージ、自らの世界をもって世界を塗り替えるのを必至とするもの。

高ぶる感情に任せれば確かに時として絶大な力を産むが、理性のない力は脆く崩れやすい。


「ハァ…フゥ……ハァ…」

「…今のは痛かったよ。アリサちゃん」


しかし高町なのはは叩きつけられた地面から起き上がると、再び空へ浮かび上がりアリスと同じ高さで止まった。


「『彼』を侮辱したには今のじゃ足らないわよ。魔刃鍛造――」


パンッと両手を身体の前で打ち合わせるアリス。


「霊厳荒かなる刃よ。我に仇なす諸悪を尽く斬滅せしめん……」

打ち合わせた手を開いていけば、手と手の間には紅蓮の焔が渦巻き、その中には黒い鞘に納められた大太刀が顕れた。

顕れた刀を腰に挿し、身体のすべてを使ってその刀身を抜く。

煌めく刃は穢れを祓う刃金の剣。

なのはの持つ錬金術の粋を注いで造られた刀。

なのはの技術と、使ったアリスの血から溢れる想いが合わさってできたその刀はまさしく宝具と言っても過言ではない。


「アナタがなんなのか私には判らない。知る必要があるのかどうかもどうでもいい。ただ――」


肩に羽織る黒いコートの内からトランプのスペードのAを取り出すアリス。

そのスペードのAから次々と生まれるトランプのカード。

その数はすべてで50枚。


「アナタが本物の『高町なのは』だとしても、私にとっての本物の『高町なのは』は『彼』なのよ!!」


スペードのAを人差し指と中指で挟み、その挟んだカードを高町なのはに向けると、残りの49枚のカード達が高町なのはを目指す。


「くっ!」


高町なのはは高速機動でカードの軌道から逸れるが、断続的に撃ち出され、しかも避けたカードも旋回速度は緩いが、確実に高町なのはを襲おうと迫っている。


「っ、ディバインバスター!」


避けるのは非効率的であり、49枚のカードを撃ち落とすのは必要以上の労力を使う。故に高町なのはは一瞬眉間にシワを寄せるが、レイジングハートをアリスに向け、砲撃を放った。

しかも避ければ下に居るなのはに中る位置に――


「無駄ッ!」


アリスは恐れもせずに砲撃に対峙すると、右手の刀を身体を右回転させて身体の全体を使って振るった。

砲撃に触れる刀身。その斬撃は桜色の砲撃を切り裂き、四散させた。

四散した魔力がまるで桜の花びらのように舞い散る中で、アリスは紅蓮の双翼を広げる。


「さぁ、いくわよ。魔導師。魔力の残量は十分かしら?」


49枚のトランプのカードを従えて、アリスは刀の切っ先を高町なのはへと向けた。






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