星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-

□第6話
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――物語には時として"イレギュラーなキャスト"が含まれるものだ。

――それは導き出すことのできない一つの可能性-未来-。

幻のように思えるのは、その全てが夢幻だからだ。

どんな些細な出来事も、思い返してみれば偶然の上に成り立っている。

呆れるぐらい同じ繰り返しの日々だったのに、同じ一日なんてなに一つもなかった。

ならば、それは……。

一つ一つがもう戻りえない、かけがえのない時間だという事ではないのか。

舞台があり、名優があり、血肉があり、足りないものは脚本だけだが――

筋書きの無い殺戮-ドラマ-。

筋書きの無い恋語-ドラマ-。

筋書きの無い明日-ドラマ-。

筋書きの在る未来-ドラマ-。

ドラマを重ねて世界を織り成し綴る。

キャスティングは――

まずは主人公。
高町なのは――しかしその身には悪性腫瘍を抱え、見せ掛けの仮面を被る紛い物の主人公。滑稽であれどその身の不屈と勇気は、彼の少女には未だなかったもの。錬金術師-アルケミスト-の端くれ。

そして姫君には。
月村すずか――高町なのはを護る為に『闇』と契約せし姫君。吸血鬼一族、夜の一族に生まれた、この『世界』で限りなく真祖に近い血を持ちし者。刃金を纏い闇を統べし魔術師-メイガス-。
アリサ・ローウェル――哀れにも男に辱めを受け、未練から霊となりし姫君。この『世界』には本来ならば存在しないはずの者。ただ1人の友を想い、『彼』のその生に『かつて』あった錬金術師-アルケミスト-としての可能性を『現在』の現実に昇華させた亡霊-ゲシュペンスト-。

アリサ・バニングス――今はまだなにも識らないただの姫君。無知は罪というが、無智故に救われる者。ただの非力なニンゲン。

演出は――このどうしようもなく捻れている『世界』の裏で起こる出来事。

ここからの物語は月姫でもとらいあんぐるハートでも魔法少女でも無く、魔術師-メイガス-が紡ぐ錬金術師-アルケミスト-とのお話し。

絶望と希望が入り乱れることに変わりはないのだが――

なに、私は筋書き-シナリオ-通りよりも即興-アドリブ-が飛び交う無法地帯が産む生の感情が好みでね。

筋書きの無い分、計算に計算を重ねても、その計算の斜め上に飛び出す役者にも恵まれている。

我が主のドラマ――

その序章をゆるりと静観してくれたまえ。お代は観てのお帰りだ。

では、虚言の物語を始めよう。






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