星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-

□第2.5話
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高町士郎――

二男二女の父親であり、高町家の大黒柱。喫茶店翠屋のマスターで、そのコーヒーは絶品であり、しかし喫茶店のマスターとは思えないデタラメな強さを誇る裏社会でも名を馳せた人物でもある。

そして『彼』の存在を唯一認識している人物でもある。

士郎が彼に気づいたのは、愛娘のなのはと病院で鉢合わせてからだ。

なのはは階段から転び一時意識不明だった。頭を強打し数針縫う傷を負い。最悪何かの障害を発症するとも示唆された。

だが奇跡的に身体にはなんともなかった。しかし心――魂のところに問題を抱えてしまった。

最初、士郎は疑問に思った。

確かに愛娘なのに気配が違う。

しかも一変した言葉使いや態度に疑問を覚えた。

医師は一時的な意識障害として診断した。

事実。なのはは自身と家族の名は言い当てても、それ以外は語ろうとしなかった。

だがその顔はまるで自身を呪い殺さんばかりに追い詰めているようなものだった。

士郎は娘に問うた。

君は何者なのかと――

それを聞いたなのはは、服の胸をぐっと握り締めて語り出した。

自分は高町なのはではないと――

曰わく19歳の引き籠もりの青年だった。

曰わく気づいたらこの身体だった。

そして自傷することで父の傍に行き、家族に気にかけて貰いたかった高町なのはの想いを伝えた。
家族の前で言わなかったのは、母も兄も姉も、今度こそ自分を責め立ててしまうと思ったからだそうな。

士郎はすべてを語り終え、怯えて身体を抱き締めていた『彼』を受け入れる事にした。

『彼』は言った。自身が憎くないのかと、娘を殺してしまった自身を何故受け入れられるのかと。

しかし士郎は『彼』を恨むつもりはなかった。


「君がなのはを殺したと思うならそれは違う。それをしたのは俺達の方さ。君を恨むのは筋違いだよ」

「……どうして、そう言えるんですか貴方は…」

「……君は、悪人には見えないからだよ。娘を想って、俺達家族を想って、押し潰されそうな心優しい君を恨むものか」

それから士郎は『彼』を1人の娘として息子として受け入れた。

だが『彼』のことは心内にしまっている。この事は本人以外の口から語られるべきではないと思ったからだ。

怪我も治り、現役を引退してからは良き父として家族を護ってきた士郎だったが、なのはが小学生になりしばらく、なのはがまた病院に運ばれたと知らせを受けた。

店を妻の桃子に任せて、士郎は病院へ向かった。

傷だらけの我が子から聞かされたのは、誘拐と自身が御神と不破の血を継ぐ者として狙われたことと、娘に人殺しをさせてしまった事を。

士郎は『彼』を咎めた
。何故大人しく助けを待たなかったのかと――

士郎は『彼』を赦した。

罪の意識を感じる事はないと。護る為に殺す。それは自身もやってきたことだからだ。

士郎は『彼』と娘に謝罪した。御神と不破の争い事に巻き込んでしまった事を。

そして娘にして息子を優しく抱き締めて言った。良く無事に帰ってきてくれたと。

それからなのはは初めて泣いた。

『お父さん』。

その言葉を何度も呟いて。

士郎は気づいていた。

『彼』は高町家で愛されて想われているのはなのはであり自分ではないことで寂しさを感じていたことを。

それをどうにかしようにも、自身は受け身にまわるしかなかった。

それは『彼』が大人で罪の意識をはっきりとさせていて、自分が高町なのはとして生きてしまっていても良いのかと思い悩んでいたからだ。

だが今回生死の狭間での恐怖から心が弱っていた『彼』を受け入れることで、少しでも父親として受け入れてもらえたらと思う。汚いやり方だろうが、こうでもしなければ、『彼』は様々な背負い込まなくても良い罪の意識に押し潰されてしまうだろうとの確信が士郎にはあったからだ。

そして落ち着いたなのはから、御神流の教えを乞われた時は頷いた。

『彼』ならば護る為に御神流を振るえることを確信している
し、今回の件を受けて必要だとも思ったからだ。

人殺しの技だが、人を護る為に振るう剣。

士郎は全身全霊を持って、なのはを何者にも負けず、強く真っ直ぐな剣を鍛えあげることを誓った。それはなのはを護る為、そしてなのはが護りたいものを守る為に――





To be continued…
 

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