星光の魔王-シュテル・ジ・エルケーニヒ-

□第16話
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「ホーレホレホレホ〜レェェェ!! ミサイルのシャゥワァなのである!! レェッツ! JAM!」


破壊ロボの頭頂部からミサイルが次々と発射される。


「来るぞ!」

「ちぃっ!」


マギウス・ウィングを羽撃かせ、空へ翔ぶ。


「なるほど、空に逃げるであるか。だがその程度では我輩の攻撃を回避するのは不可能であーる!」


ドクターウェストの声に合わせるようにミサイルの外枠が剥がれて、中から小型のミサイルがわんさか出て来た。


「てかそんなんありぃぃぃぃーーーーー!?!?」


逃げる隙間もなく、ミサイルは次々と命中する。


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

「くぅぅぅぅぅぅっ!!」


マギウス・ウィングで身体を包んで防禦陣を幾重にも重ねて爆発を耐えるけれども、爆風と衝撃のミキサーにかけられて三半規管がてんやわんやだ。


「げぇぇひゃひゃひゃひゃひゃ!! どーだね、我輩特性のグリントミサイルの威力は! 変態兵器も二、三発で撃墜可能なバランスブレイカー! しかし我輩の基準環境は1.20レギュの超ハイスピードバトルである」


分裂式のミサイルなんて聞いちゃないわよ……。


「…ア、アル、無事? うぇっぷ…」

「ふにゃぁぁぁ……お、おにょれぇぇ……うぇっぷ」


みっともないけど仕方がない。吐いてないし。五体満足だから十分。


「アル、バルザイの偃月刀を――」

「お、応よ……うぇっぷ」


それでもアルが肩に掴まっているのを確認して翼を閉じて急降下する。


「おのれバーニングよ! 我輩との戦いをほっぽりだして偃月刀を回収する気であるな? だがさせんのである!」


破壊ロボの腕のドリルが唸る。

その内に秘められた電力を糧に、空気さえも巻き込んで回転を始めた。

回転は空気を回転させ、荒れ狂う気流は暴力的なまでの物理的な力を宿している。


「ドリル・トルネード・クラッシャァァァァァァーーーー!!!!」


突き出された破壊ロボのドリルアーム。

風の激流は竜巻となってあたし達を巻き上げた。


「くああううぅぅぅぅーーーー!!」

「にやぁああぁぁぁぁーーーーー!?!?」


あたし達を巻き上げた竜巻はビルも粉々にしながら巻き上げる。


「バルザイの偃月刀――!!」


視界の中を一瞬、黒い影が通り過ぎた。

でもその一瞬でその正体を視るのは、理解するのは十分だった。

咄嗟に伸ばした手は悲しくも宙を割く。バルザイの偃月刀にフラれたみたいで少しヘコむ。

まるで洗濯機の中にブチ込まれたような暴力的な回転が終わる。

僅かな浮遊感。

でもそこから重力に従う落下はなかった。


「え?」

「き、貴様は!?」


墜ちるはずだったアリサを抱き上げたのは――女の子だった。


「なっ、なななな、何故!? 何故貴様が此処に居る!?」


外部スピーカーを伝って半壊した街に響き渡った驚愕の声。

それは影の様な少女だった。

黒いコートに黒いインナー、黒いスラックス、黒いアウトスカートを身に着た、全身黒尽くめに、紫色の髪を靡かせて――瞳は、なのはと同じく冥い光を吸い込む紫色。

アリサがその存在を理解する前に、空を裂く音が耳に聞こえた。

キィンと、まるで鈴の音のような音が響いた。

そして瓦礫が崩れ落ちたかのような轟音が続く。


「ノォォォォーーーー!?!? 我輩の魂のドリルがあああああ!!!!」


音の源は破壊ロボだった。

ドラム缶のような身体から生える二本の腕の内の一本のドリルアームが地面に横たわっていた。

そして破壊ロボの方からやってくる七つの影。


「バルザイの偃月刀――!? って、うわわ!?」


少女はアリサを片腕に抱きかかえる。意図を理解したアリサも慌てながらもその首に腕をまわして落ちないようにする。

少女は飛んできた――仕事を終え、舞い戻ってきた偃月刀を無造作に受け止める。

その刃に重なるようにして、2本目が少女の手に。

さらに3本目。4本目――5、6、7。

金属同士が重なり合う甲高い音が静かに世界へ響く。だが不思議なことに、少女の掌にある偃月刀は一本のままだった。

そしてすべての偃月刀が少女の元へ戻ると、偃月刀は何の変哲もないステッキに変わった。


「古手梨花!! いや、ベルンカステル!! 無限地獄の魔女が何故!?」

「古手梨花?」


その名にアリサは聞き覚えがあった。

それは自称『100年の魔女』、何度も『世界』を繰り返してきた、絶望に挑んできた少女の名。


「フッ、確かにこの身は彼の魔女さ。でもあえて云うなら、『東方の魔女』と呼んでもらいたいのですよ。ミスター・マッドサイエンティスト」

「え? ど、どういうこと!?」

「わ、妾にもわからん……」


存在しないはずの人物。

ドクターウェストは別として、この少女からはなのはと同じ冥い雰囲気を感じた。

つまりこの少女も魔術師だ。バルザイの偃月刀を操るのだから魔術師なのは当たり前だが、そうではない。

その雰囲気が魔術師なのだ。


「小さな死霊秘法の主-リトル・マスター・オブ・ネクロノミコン-」

「は……はいっ!?」


突然、声を掛けられ、アリサは肩を張った。敵か味方か、自身を助けてくれても味方かはわからないが。

しかし――

その紫色の瞳、なのはと同じ雰囲気の冥い眼差を。だが、静かで穏やかな瞳を視たら、敵意は湧いてこなかった。


「アル・アジフ……」

「な、なんだ、汝?」


まるで懐かしげな眼差しをアル・アジフに向ける少女。


「君達の中に在る剣を信じろ。それは人間の為に振るわれる、魔を断つ剣になる」


そして少女は破壊ロボを見据え、これまた懐かしげに見ていた。


「8年振りか。もう見ることはないとは思ってたけど」


まるでそれは破壊ロボを知っているような素振りだった。

少女がコートをマントのように開く。

その内側には6本のバルザイの偃月刀――

バルザイの偃月刀はマントの中から出て来るや否や、少女の周りを囲み、ビルの床に突き刺さった。

光の帯――字祷子-アザトース-の帯が突き刺さった偃月刀を繋ぐ。

それは旧き破邪の印だった。

旧き第4の印。脅威と敵意を祓う印だった。


「虚数展開カタパルト作動――! 機神招喚!!」


何も無いはずの虚空に、たった今、途方も無い質量の気配が生じた。

そこに在り得べかざる物質が、巨大な何かが、強大な力を秘めた何かが、今、顕現しようとしていた。





To be continued…
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