香水 K×A

□砂上の楼閣
1ページ/3ページ

燦々と輝く灼熱の太陽。
白く乾いた砂地。
どこまでも遠くへ伸びる、荒野の果て。

強く握り合った手のひらは互いの汗と砂にまみれ、ドロリとした感触だったが、不思議と不快ではなかった。


随分と深い所まで入り込んでしまったようで、ラクダや人など辺りには微塵も見当たらない。

来る前にぼんやりと思い描いていた砂漠の予想図とは何かが違う。

綾香は訝しげに隣の有香を見やったが、有香は無表情で黙々と歩くだけだった。


気が滅入るほど辺りには何もなく、気が遠くなるほど砂漠には果てがない。

砂漠ツアーを敢行したのは有香だった。
綾香は、砂漠ツアーのスケジュールを何一つ聞いていない。

どこへ向かい、何をするのか、質問しても有香は何も答えてくれなかった。

「あ〜ちゃんが行かないんだったら私一人で行く」と頑なに言い張り、それはそれで心配だった綾香はつい付いて行ってしまったのだった。

しかし、ここまで過酷であったとは、綾香には思いもよらなかった。

リュックに入っているのは少量の水と食料だけで、非常に心許ないが、有香の鞄には便利な物が沢山眠っているはずだと綾香は淡い期待を抱いた。


有香は道中、バスの中でも穏やかな表情を見せる事はなかった。
どことなく思い詰めたような、切迫したような、そんな雰囲気を匂わせていた。
そんな有香に何か問い掛けることも出来ず、綾香はただ黙って俯いていた。

成す術のない無力な自分を情けなく思うが、こういう時の有香はそっとしておいた方がいい事を遥は長い付き合いの中で知っていた。

端から見れば、理知的で美しく、落ち着いた印象を与える彼女だが、実はとんでもなく破天荒で、周囲をハラハラさせるトラブルメーカーなのだった。
綾香は有香から何度迷惑を被ったか知れない。
しかし、その迷惑は綾香にとって心地よくもあった。
迷惑を受けることも、限られた人間にしか許されない特権なのだ。
きっと、綾香は有香を好きなのだろう。

それは友情なのか、あるいはそれ以上に特別な感情なのかは、綾香自身ですら分かりかねていた。

よく分からないが、好きに砂漠を歩かせればその内気が済むだろう、と綾香は考えていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ