香水 K×A

□空中ブランコ
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「あ〜ちゃん。」

名前を呼んで、肩に頬を擦り寄せる。

あ〜ちゃんは読んでた雑誌を閉じて、ん?って私に微笑みかけた。

「…別に、何でもない。」

私はあ〜ちゃんにくっつけていた右頬を離し、つんとして前を向いた。

拗ねたフリ。
あ〜ちゃんの意識を引き付ける為。

「なに拗ねとん。」

困ったように笑って、私の顔を覗き込む優しいあ〜ちゃん。

「だって、構ってくれないから。」

そういう私も、さっきまでジョジョ読むのに熱中してたけどね。

もう漫画に飽きちゃった私は、まだ雑誌に読み耽っているあ〜ちゃんに、拗ねたフリをする。

あ〜ちゃんはそんな私を咎めるでもなく、あやすように私の髪を梳くだけ。

「構ってよ…。」

甘えたような私の視線を、軽く受け流すだけ。

膝枕して、って言うと、あ〜ちゃんはにっこりして、太ももをポンポン叩いた。

私は弾力のあるそこへ頭を預け、瞳を閉じる。


「彼氏とは、最近どうなの?」
「…あー。」

そんなしたくもない話を振らないでよ。

「まだ…続いてるけど」

でも愛してない、って小さく呟く。

「ゆかちゃんは、すぐ冷めちゃうんよねぇ。この前まで、すごくハマっとったじゃん。」

「…んー。」

それは、あ〜ちゃんが先に彼氏の話をし出したからでしょ。それもすごく幸せそうに。
それに深く傷ついたゆかは、好きでも何でもないただの惰性で付き合っている彼の事を、さも好きで堪らないみたいに話したんだよ。あ〜ちゃんも少しは嫉妬してくれないかなって期待を込めて。

あの時、よかったじゃんって言うあ〜ちゃんの瞳に少し寂しげな色が見えたのは、私の気のせい?自意識過剰?


「今の彼氏と別れるん?」
「さぁ。多分ね。」
「…そうしなよ。」

あ〜ちゃんは低く言った。
急な声のトーンの変化に、驚いて彼女を見上げる。

私を見下ろすその顔は、陰りが邪魔をして、微笑んでいるのか、怒っているのか、よく分からない。

「本当はね、ゆかちゃんの恋の話なんて、あ〜ちゃん聞きたくないから。」

冷たく突き放すような、その言い方。あ〜ちゃんだって私に恋バナするじゃん、と言いかけて飲み込んだ。

怖い。あ〜ちゃんが。
普段、私が何をしても優しく笑って流す、ちょっと物足りないあ〜ちゃんが。

下からの角度だから、そう見えるんだろうか。

「…どうして?」

「さぁ。…好きだからかな?」

口角を緩く持ち上げたその顔からは、やはり何も読み取れない。

言葉の欠片や、ちょっとした表情の変化を組み合わせて、頭の中で思惟を巡らすけど。


「よく、分かんない。」

「そらそうじゃ、当のあ〜ちゃんですらよく分からんのじゃけぇね。」

あ〜ちゃんは軽く上を見上げて、何か言い淀んで、止めた。
大きな瞳は、宙を遊泳していた。

どこを見ているの?
なにを目指しているの?

あ〜ちゃんの言葉に動揺して、激しく胸を高鳴らせて、ちょっと期待したりして。

振り回されて、宙ぶらりん。
ゆか、愚かなピエロみたいだよ。

分析したって分からない、掴めない。

彼女の感情の、先。


fin

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