香水 N×K
□北極星
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25階から見下ろす夜の都会は、壮観だった。
黒い闇に点々と散りばめられる無数の光。
様々な色のネオン。
妖しく匂いたつ、恋人たちの夜の香りが感じられた。
私たちの泊まるホテルの灯りも、外から見れば無数の光に入り混じる、エロティックの片鱗に化しているのだろうか。
昼間は新陳代謝の激しい活発な街でしかないのに、夜にはこういった大人の色香を魅せる。
都会って不思議だ。
美しいけれど、その不思議な魔力に畏怖してしまう。
見下ろす甘美な景色に、足元を掬われそうな気分になって。
早く、戻ってきてよ…
バスルームから聞こえるシャワーの音を何となく耳に流し入れながら、窓辺で一人夜景を眺めた。
彼女との出会いは、かなり劇的だった。
当時、お互い恋人がいたのに、私たちはいつのまにか恋に落ちてしまっていた。
本来なら、諦めなければならなかった。
私はそのつもりでいた。
それなのに、彼女は飄々として私の手をとり、「抜け出そう」と言った。
私はそんな彼女の言葉に乗せられて、あの世界から二人で抜け出してしまった。
夜の闇は、深く暗く果てが見えない。
その闇を這うように、いつか誰かが追ってくるかもしれない。
得体の知れない魔物のような手が、私たちに向かって伸びて、のっちと私を引き裂いてしまう。
想像するだけで、足がすくんだ。
逃避行のさなか、愛しい恋人の姿も見えないようなただ真っ暗な夜は怖い。
だけど、それと同じくらい都会の夜も怖い。
見た目には鮮やかなカラフルで禍々しい光が、私たちの方位磁石を狂わせてしまいそうで。
汗が滲む程暑いのに、いつの間にか鳥肌が立っていた。
一人で実態の知れないものに馬鹿みたいに震えあがっていたら、耳馴染みのいい少し低めの声が私を呼んだ。
「ゆかちゃん、お待たせ」
背後を見やると、バスローブに身を包み、全身から湯気を漂わせているのっちが笑いかけていた。
私は無言で小さく微笑み返す。
「夜景、綺麗だね」
のっちが私の近くに歩み寄りながら、言った。
「…うん」
二人で、ガラスに隔てられた外の景色を眺める。