魔法少女リリカルなのは〜時の引き金〜

□第3話 仲間と共に
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 ガサガサと、草木を掻き分けながら三人の人影が森の中を進んでいく。
 うっすらと汗を滲ませながら歩くのは、祐希奈、アインハルト、咲夜の三人だ。

「ねぇ、はやコンの人?」
「はやコンって……」
【事実だろう。はやてさんの写真があれば丼三杯はいけるくせに】
「なっ!? 違う!」

 自身のデバイス、凪の一言に咲夜はありえないという風に首を振る。

「五杯は軽い!」
【うん、馬鹿だ】

 握り拳を胸の前に抱き、目を煌かせて言い放つ。
 その瞳に映るのは、はやてが無邪気に笑う写真の数々。
 小学生、中学生、そして、六課を率いている大人のはやて。
 咲夜君、咲夜君と、妄想の中のはやて達が咲夜に笑いかける。
 その時、彼は悟った。
 五杯? 自分はなんという間違いをおかしていたのだろうか、と。

「いや、炊飯器ごといける!」

      ―撃!―

 瞬間、祐希奈の拳がキラキラと輝いていた咲夜の顔面に叩き込まれた。
 拳を握り締めた体勢のまま鼻血を噴出した咲夜は仰向けに倒れ、苦痛に呻く。
 
「聞きなさいよ?」
「ごめんなさい……」

 そんな咲夜を祐希奈が気遣うこともなく、至って平然としながら腕組みをする祐希奈。彼女からすれば、当たり前の行動だったのだから。
 言うことを聞かなければ即鉄拳。無視をするなど論外だ。
 相手が年上だろうと、階級が上の人間でも関係ない。気に入らなければ殴るだけ。
 それが、祐希奈という少女だ。
 ちなみに、先の一撃はとある少年達に放つものよりは数段弱かったりする。
 これには祐希奈の優しさが滲みでている。

「優しさ!? これ優し――」

      ―撃!―

「うっさい♪」
「ごめんなさい……」

 どこか虚空に向けてツッコミをいれた咲夜を軽くジャブで黙らせ――アインハルトはどう反応していいのかがわからず右往左往していたが――改めて質問を行うことにした。

「さっき飛ぼうとした時、ダメってアンタはいったわよね? 目が本気だったらから仕方なく今まで歩いてきたけど、そろそろ理由を話してくれない?」
「あ、それは私も気になってはいました。飛べない私はともかくとして、お二人は歩いていても、体力の浪費だと思うのですが?」

 そう、三人が歩いていたのは、他でもない、はやコンこと咲夜が飛ぶなと止めたからであった。
 二人から求められ、咲夜は上空を見上げて、安全の確認、「ここならいいか」と、一人で頷く。
 その行動自体に、祐希奈とアインハルトは疑問を抱く。
 明らかに、咲夜は上空を警戒しているのだから。

「今、ここに来ているのは、俺達とカナン君、そして、ヴィヴィオちゃん、だけの筈だ。実験に参加していたのはこれだけだからな。
 でも、違う。よく集中しないとわからないが、他にも魔力の反応が感じられる」

 咲夜の言葉に、祐希奈とアインハルトは顔を見合わせた後、瞳を閉じて精神を集中、魔力反応のみに意識を巡らせ――

「あるわね……。しかも、一つじゃない……」
「はい。複数感じます……」
「ここからは遠いけど、戦闘を行っているところもあるみたいだ。逆に、それだけ遠くてここまで伝わってくるってことは」
 
 ――ようやく咲夜の言っていることを二人は理解した。
 反応を感じ取れた場所からは遠く離れている。
 逆に言えば、それだけ離れているにも関わらず、感じるのだ。
 必然、それは、その対象が強力な個体という意味で。

「相手のことがわからないうちから目立つなということですね?」
「そういうこと」

 事の次第を理解したのか、アインハルトは少しの緊張を含んだ表情で頷く。
 しかし、祐希奈は腕組みをしながら微妙な表情を浮かべていた。
 理解はした。理由もわかる。だが、納得が出来ない。

「こういうの、コソコソするみたいで嫌いね」
「気持ちはわからないでもない、な」
【女性問題が無ければ真っ先にマスターが突っ込むだろうし、なぁ?】
「凪、ちょっと黙れ」

 またしてもはやてのことに突っ込まれ、コメカミを痙攣させながら、若干の“良い笑顔”を浮かべながら相棒を黙らせる。
 はやて分が切れてきているため、冷静さを欠いてきているのだ。

「何だよはやて分って!」

 虚空にツッコミを入れる咲夜をいぶかしみながらも、祐希奈は溜め息を一つ。

「まぁ、それが最善ならそうするだけよ」

 祐希奈が意地を張らずに歩いて先へ進んでいくことに二人は少し驚いた。
 出会ったばかりの二人からしても、譲る、などといった行為には縁が遠そうだと思っていたから。
 二人の見解は間違ってはいない。それでも、仲間の危機に通すべき我が儘などはない。
 そのくらいは、祐希奈とて理解していた。
 出来る限り急いで、会話もなく、無言のまま進んでいく。
 集中からの無言であったのなら、どんなに良かったか。
 特に、祐希奈はそれが顕著であった。
 速く、もっと速く、されど、人間の足で山道を歩く速さには限界がある。
 こうして歩いている今にも二人が危険な目にあっているような気がして、その焦りが彼女の思考を満たしていく。
 彼女の頭の中にあるのは、一刻も早くカナンと合流し、ヴィヴィオを見つけるということだけ。

「危ない!」
「え……?」
【祐希奈!】

 普段の祐希奈なら、こんなことはなかったのだろう。
 だが、先に進むという目的が先行しすぎたために、注意力が散漫してしまった。
 アインハルトの叫びを聞いて、ようやく我に返った祐希奈の頭上に影が射し、ダン、とその脳天に光弾が直撃し、悲鳴も上げずに祐希奈が倒れ伏す。
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