魔法少女リリカルなのは〜時の引き金〜

□Prolog2 引き金の始まり Beginning of the trigger
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「ん?」
「……? どうしたのよ?」
 
 ミッドチルダ建国記念祭を見ている最中。いきなり風間カナンは何もない方向へと振り向いた。
 連れ立って歩いていた、祐希奈が怪訝そうな顔をする。
 カナンはうーんと、首を傾げて頭を振った。
 
「……なんか呼ばれた気がしたんだけど、気のせいだったみたいだ」
「……ふーん。それ、女の子の声?」
「いや、シオンっぽかったんだけどな。……て、何で、そんな事気にするんだよ?」
「別にー」
 
 祐希奈は、ぷいっとそっぽを向くなり前へと一人で進んでしまう。
 何をふて腐れていると言うのか――カナンは首を捻りながら、祐希奈の後を追った。
 
「なぁ、どうしたんだよ? 何怒ってんだ?」
 
「……怒ってないわよ」
 
「いや、怒ってるって」
 
「怒ってないって言ってるでしょ」
 
「絶対、怒ってるって。ほら、こうぴくぴくと寄せられた眉とか――」
 
「怒ってないって言ってんでしょうがっ! ああもう! このバカは! 一遍殴らなきゃ分かんないようね! そんなに怒られたいなら全力で怒ってやるわよ!」
 
    −撃!−
 
「へぶしっ! でも、いつも通りで安心した――――――!」
 
 ……いたらん事さえしなければ殴られずに済んだものを、地雷を踏む事に関してシオンと同じく定評のあるカナンは、祐希奈に盛大にブン殴られ、すっ飛んでいく。
 
 そして、祭りの記念にと作られた大きな鐘まで彼は飛んで行き――その先に、人影があった。
 
「げ!?」
【マスター!】
【主!?】
 
 カナンは慌て急停止、空間突破で躱そうとするものの間に合わない。結果――。
 
「あだっ!」
「きゃう!?」
 
 人影と、ものの見事にぶつかってしまった。
 二人はぶつかった衝撃で、地面に転がる。それを見て、カナンをブン殴った祐希奈が青ざめた。
 
「ちょっ、大丈夫――?」
「痛たた……。すみませ――て、あれ?」
「こっちこそ、よそ見しててごめんなさ――」
 
 カナンはぶつかった人に起き上がりながら、謝ろうとして――その人物を見るなり、硬直した。
 何故なら、それはよく知る人物であったから。
 ぶつかった人物――少女も、カナンを見るなり固まる。そう、彼女は――。
 
「「ヴィヴィオ!?」」
「カナン君! それに、裕希ちゃん!」
 
 高町ヴィヴィオ。
 かのエース・オブ・エース、高町なのはの娘にして、カナン、祐希奈の友人。
 ぶつかった人物は、彼女だったのである。さらに、彼女は一人では無かった。
 
「ヴィヴィオー、大丈夫?」
「怪我とか無い!?」
 
 ぞろぞろと、ヴィヴィオの後ろから三人の少女達が現れる。
 二人はヴィヴィオと同年代の少女、そして残る一人は――。
 
「……ヴィヴィオさん、ご無事ですか?」
「あ、はい。アインハルトさん。ありがとうございます」
 
 転がったヴィヴィオに手を貸すのは、彼女より若干年上の少女であった。
 アインハルト・ストラトス。覇王の血を引く少女。それが彼女であった。
 アインハルトは、ヴィヴィオを起き上がらせると、カナンに視線を送った。
 
「……あなたは? 大丈夫ですか?」
「俺も平気です。頑丈だけが取り柄だし……」
「そうですか」
 
 カナンの返事に、あくまでも無表情なアインハルト。
 カナンは困ったなぁと頭を掻いて、そんな彼に二人の少女が話しかけて来た。
 
「えーと、カナン君だよね? それに祐希奈ちゃん。話しはヴィヴィオから聞いてるよ♪ はじめまして♪」
 
「……確かヴィヴィオがミッドの学校に居た時の同級生の――?」
 
「うん。私はリオ・ウェズリー。リオでいいよー。で、こっちが」
 
「コロナ・ティミルっていいます。私もコロナで大丈夫だよ」
 
 元気の良い活発な少女と、やや大人しめの少女。
 コロナ、リオにカナンも笑顔を浮かべる。
 
「はじめまして、俺は風間カナン。よろしくな。で、あの俺をブン殴ったのが――」
「一之瀬祐希奈よ。直接会うのは、はじめてよね。よろしく、リオ、コロナ」
 
 カナンに続き、追いついて来た祐希奈も挨拶する。
 そして、祐希奈はそのままヴィヴィオに視線を転じた。
 
「ごめん、ヴィヴィオ。大丈夫?」
 
「うん、大丈夫だよ裕希ちゃん。でも、その……あんまり人が多い所でカナン君殴っちゃダメだよ?」
 
「そうね、気をつける。今度は人が少ない所で殴るとするわ」
 
「いやいやいやいや! そもそも殴んなよ!?」
 
「ヴィヴィオも祭りを見に来たの? そう言えば、そっちの女の子は?」
 
「て、無視か!?」
 
「うん。紹介するね。この人はアインハルト・ストラトスさん」
 
「アインハルトで結構です。祐希奈さん、よろしく」
 
「うん、よろしくね!」
 
 カナンを置いてきぼりにして、話しを進める一同。
 女が三人寄らば姦しいとはこの事か。それが五人もいるのだから当然と言える。
 置いてきぼりにされたカナンは悲痛に胸中叫んだ。
 
 シオン……! 頼むから、援護に! 俺一人じゃ無理!
 
 しかし、肝心のシオンにその叫び(念話)は届かない。
 返事が無い事にカナンは少し訝しみ――。
 
「ほらカナン。あんたもいつまで拗ねてんのよ、さっさとアインハルトに挨拶する!」
 
「て、呼び捨て早っ!? お前ねー。年上なんだから、初対面くらいは『さん』を付けろよ!」
 
「別にいいじゃない」
 
「よくねえだろ、ったく。……連れがすみません」
 
「いえ、結構です。カナン君、で私も?」
 
「え? ああ、なんなら呼び捨てでも構わないですけど……」
 
「いえ、カナン君で」
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