魔法少女リリカルなのはStSsyo

□第三話
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 魔法を発動させる場合には魔法陣が発生する。それはミッド式、ベルカ式、そして剏の使用するアウラ式にも精通している。魔法とは自然界に存在する物理法則を術者の魔力を使用し、任意で書き換える事象行為そのものをいう。
 管理世界で現在一般化されているミッド式、ベルカ式の魔法は地球上の物理や数学に通ずる。いくら魔力という燃料があれど任意で事象を書き換えるなどという世界法則に喧嘩を売るような行為は神の御業と言ってもいい所業。構築と制御には多大な演算が必要となり、単純な魔法ならいざ知らず、砲撃魔法や儀式魔法などの上位魔法となると術者に掛かる負荷はとんでもないものとなる。
 だからこそ魔導師たちはデバイスという魔導機器を用いて演算を負担してもらう。AIという自らの意思を持つインテリジェントデバイスなら予め魔法を読み込ませておけば自動で行使することもでき、咄嗟の場合に非常に役に立つ。
 ストレージデバイスも自動で行使することは出来ないが処理速度の短縮で発動速度の短縮にもなる。アームドデバイスとてミッド式のデバイスに比べると若干補助面で見劣りはするが出来ることには変わりない。
 だがそれも術者が使用できる魔法に限定される。
 当然だ、術者が使用し、デバイスが読み取ることでその魔法は保存されるだけであり、あくまでプロセスをショートカットしているのみで術は術者のものなのだから。
 よって小さな防壁を前面に一つ張るがやっとの剏が多重防壁を張ることなど不可能なのだ。
 しかし先の戦闘で剏は見事な多重防壁を展開し、見事に砲撃を防いで見せた。
 ありえないこと……と声を上げて言いたいことだが実際剏はやって見せ、他の者も目撃してしまった。
 彼の事を知っている者からすれば不思議で仕方がない。

「どうやったんですか!?」
「…………」
「少ししか見れませんでしたけどあれって確かに多重防壁を展開していましたよね! どうやったんですか、私見ではあの大剣に描かれた魔法陣が関係してると思うんですけど単に掘られた魔法陣では文様にしかなりませんし、仮に別の手段でインストールしたとしても術者本人が使用出来ないのならそのプログラムに意味はなく、ただ大幅に容量を取られ、デバイスの処理速度や耐久性にまで問題が出てくるだけだと思うんですけど。でも録れた映像からは術者の魔力に反応しているように見えて……」
「あーちょっと待てって。ストップ、ストップだ」

 ちょうど剏の戦闘データを取るために見学に来ていたシャーリーは捲し立てるように詰め寄り、対して剏は若干後ずさりながら、あーこんな感じの機械バカだったっけシャーリーって……などと考えて思い出した、ああこんなやつだったと。フェイトという同じ執務官の下で補佐をしていた同僚。一度火が付くと誰かが止めない限りどこまでも続く暴走列車。
 それを懐かしくも感じるが正直今は遠慮したい。

「あの技術は俺もよく知らないんだ。俺が世話になってたとこで作られた試作品らしくて、強引に備え付けられたもんなんだよ」

 だからそれ以外知らん、剏はそう言っているつもりだったのだが――

「えー、でも付けられたということはこれを作った人は誰だか知ってるんですよね? 誰ですか何て名前なんですか紹介してくださいよぉ!」
「あーあー聞こえない聞こえない」
「しょーおーさーんー!」
「聞こえませーん」

 止まらないシャーリー。
 服を引っ張り揺らす彼女に耳を塞ぎながらもされるがままの剏。ブンブンと激しく揺すっているが技術主任(ジャンクバカ)の目にはそんなものは映らない。ただただ自己の好奇心に突き進んでいるだけ――のように見えるがそれは少し違う。
 今彼女の中では興味が二割、衝撃が八割という割合で占めている。
 シャーリーはデバイスマスターとして並以上の能力を持つ。それは自惚れではなく、当然そこに至るまでの努力があるわけで、シャーリーの幼馴染であり、六課ではやての副官を務めるグリフィスもそれを認めている。
 書物を漁り、先輩に話を聞き、実物を触り、出来うる限りのことを勉強した。
 自分が知る知識が全てなどとは露にも思っていないが、それでもデバイスに関することなら、大体のことは把握ないし、理解しているつもりだった。
 だからこそあんなものを目の前で見せられ、驚きが奔ったのだ。
 何が起こったのと、どうやったのかと。
 それを調べようとしても、先程のフェイトとの戦闘で剏の大剣は粉々に砕け散ってしまい、件の技術を解析することも叶わない。
 ならば剏に聞くしかない。

「おねがいします! ほんっとに気になるんです、この通りですから!」
「ああもう!! わかった、わかったから!」
「ホントですか!」

 両の手を合わせ、深々と頭を下げるシャーリーに剏は根負けした様子で頭を掻く。
 シャーリーと出会ってこれまでで一番深く頭を下げられた理由がこのような内容というのに若干遣る瀬無い気持ちになるが仕方がないと割り切る。

「今が連絡取れないけど、紹介するよ。それでいいか?」
「はいっ、ありがとうございます!」

 何度も言うがこんなに目を輝かせでこちらを見るシャーリーと剏は見たことがないく、やっぱり少し悲しくなった。

「もうお話は終わったかな?」
「あ、あぁ、一応な」

 ちょうどいいタイミングで話しかけてきたのは栗色の髪をした女性――高町なのは。
 シャーリーに質問攻めにされていたので周りを見れてなかったが現在ここはなのは達が見学していた場所で、当然レインたち観戦組もいる。

「シャーリーも今のデータ纏めなくていいの?」
「あ、そうでした! 早くやっちゃわないと、それじゃあ剏さんさっきの件約束ですよ! 絶対ですからね!」
「あーわかってる、わかってるから」

 約束ですよーと最後見えなくなるまで声を上げ続けたシャーリーの貪欲さに一種の尊敬の念を抱く剏。
 面倒な約束をしてしまったが、あそこまで必死になっているのだ。まあなんとかしてやろうと思う。
 そんな風に考えていると後ろから声が掛かった。
 
【やっぱり負けちゃったね】
「うっさい。普通労いの言葉が先に出てくるもんじゃないのか」

 第一声にこんな言葉を掛けてくる人物など一人しかいない。
 伊達に長い付き合いではないのだ。見なくても誰かわかる。
 だから剏も悪態を付き返した。

【そんな言葉を私に期待してたの?】
「別にそういうわけじゃないけど」
【ならこれでいいじゃない】

 わかってるよーと言いながらレインは定位置となっている剏の頭へと座り込み、剏もそれを止めようとはしない。頭上の適度な重みも慣れ親しんだもの。

「まぁそうだけどさ」
【はいはい、お疲れ様でしたー】
「……もういい」
【もう拗ねない拗ねない。うん、剏ちゃん頑張ったよ。お疲れ様】
「子ども扱いすんな!」

 わかってるよーと言いながら座り込んでいる頭を撫でる。
 わかってない。全くわかってない。毛ほどもわかってない。
 否、違う。わかっていながらやっているのだ。
 それがレインという相棒なのだと剏は認識している。

「はいはい、漫才はその辺でお終いにして」
「漫才じゃねぇ」
「うん、そうだよね。漫才じゃないんだよねー」
「……俺ってこいつらの接し方考え直した方がいいのかな」

 半分冗談半分本気でそんなことを考えてみる。
 歳は同じはずなのに何故こうまで子ども扱いされるのだろうか。
 身長が負けているからか、それともデスクが苦手だからか、等と思ったりしている剏だがそもそもそういう風に考えてしまうその思考が子ども扱いされる由縁だと彼は気付かない。

「まずは自己紹介が必要だね」

 見知った顔も多いけどねと言ったなのはの後ろには四人の男女がいた。
 その四人の表情はというと、これまでの剏たちのやり取りを見ていて、苦笑している者、なんだこいつはと呆れている者、久しぶりの再会にただただ喜んでいる者と様々だ。
 しかしその誰もが彼の言葉を待っているという部分は共通している。
 八つの瞳から注がれる視線に一ヶ所に集中している。
 ……こういうのあんまり得意じゃないんだけど。
 注がれる張本人はそんなことを思いながらも仕方なしと諦め、潔く口を開いた。

「あー、浅儀剏って言います。剏って呼んでくれていいから。むしろそう呼んで。階級は三尉。さっきの見てたんならわかると思うけど俺も前線で身体張る係。君たちの先輩ね。一応ライトニング部隊の副隊長ってことらしくて、何かと忙しく留守にすることの多くなるフェイト隊長やシグナム副隊長と違って隊舎にいることが多いです。コールサインはライトニング05。君たちの訓練にお邪魔するときもあると思うし、これからよろしく」
【私はレイン。剏ちゃんの相棒かな。よろしくー】

 柔和な微笑を浮かべる剏とレイン。
 よろしくお願いします、と元気な声が返ってくる。
 剏の方へと走り寄ってくる二つの小さな影。

「剏さん!」
「お久しぶりです!」
「久しぶりだな、二年ぶりくらいか」
【エリオもキャロも大きくなったね】

 嬉しそうに駆け寄る赤髪の少年と桃色の髪をした少女。
 その様子に自然と笑みが零れる剏も二人の頭を優しく撫でる。
 エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ。
 その昔フェイトが保護した二人で、その場には剏も共にしていたこともあり、それ以降もよく会いに行ったりしていた為、剏によく懐いているのだ。
 二人にとって剏は優しいお兄さんといったところか。

「きゅるー」
「あぁお前もいるんだよな。覚えてるよ、フリード」

 自分もいるぞと意志表示を示したのは白き飛竜。
 フリード・リヒ。
 キャロが卵から育てた竜で小さくとも立派な竜種。
 懐かしい顔ぶれに嬉しさが込み上げる。
 いつもの優しい瞳、柔和な表情。
 だがその顔が一瞬陰る。

「たぶんフェイトから何回も言われて耳にタコだろうけど――」

 身体を屈めエリオたちの視線を合わす。二人には滅多に見せない笑みとは違う顔。
 まっすぐと見つめる剏の瞳に、幼い二人にも彼がこれから言うであろうことを真剣に言っているのだと理解できた。

「俺たちは前線メンバーだ。つまり前で身体張って敵とドンパチやるわけで、当然ケガする時だってあるし、ヘタすると死んでしまう時もある。そうならないように俺たちも必死に頑張るがどうにもならない時だってある。お前らはそういう場所に踏み込もうとしているんだ。それは理解してるか?」

 十歳の少年少女に聞かせる言葉ではないかもしれないが剏は真剣に言っている。 
 昨今の魔法技術には非殺傷設定というものがある。これにより死という現象は格段に減ったことは事実だが、それでもケガはする。小さいものから大きなものまで。
 世の中絶対ということはない。非殺傷といっても成長途中の子供の身体だ。当たり所が悪ければ死ぬかもしれない。
 それ以前に管理局員が戦う相手は犯罪者だ。非殺傷などというものを使ってくるかさえわからない。
 要はやるならやられる可能性も視野に入れておけ、ということだ。
 知らぬ、わからぬなんて通らない。
 それを理解していなければならず、剏はそれを二人に問うている。
 覚悟はあるのか、と。

「別にお前らが決めたのならお前らの人生だし、口出す権利はないし、俺もフェイトも止めやしない。二人が好きに生きてくれた方が俺たちとしても嬉しい。けどもし恩を返したいという理由だけでこの道を選んだのならそれは嬉しくない。たぶんフェイトも言ったんじゃないか? もっと危険のない道を選んでほしいって。それは俺だって一緒だ。だから聞くよ。安心しろ、これで終わりだ。俺からはもうこれ以上この話はしない。聞くぞ、お前らはこの道を進んでいくのか?」

 剏の気持ちはまっすぐエリオやキャロに伝わった。
 二人には幸せに生きてほしい。
 これまでの人生は辛いこともあった。寂しいこともあった。
 だからこそ笑っていてほしい。あったかい場所で、悲しまないように。
 そう思っての言葉。
 剏の想う気持ちがひしひしと二人に伝わっていく。
 だからこそ二人は一度だけ顔を見合わせ、再び剏の方へとその視線を向け、想いを口にする。

「心配を掛けてしまってることは十分理解してます」
「それでも私たちは私たち自身の意思でお二人の近くにいたいと思ったんです」
「覚悟はあります」

 しっかりと見つめ返しそう言った。
 そんな二人に剏は。

「そっか」

 それだけ言って再び表情に笑みを灯らせた。
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