魔法少女リリカルなのはStSsyo

□第二話
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「……疲れた」
「ハハハ……でも剏がもっとしっかりしてたらああいうことにはならなかったんだよ」
「はいはい、反省してるよ」
「もぅ……」

 お叱り二時間コースは流石に時間が取れないということでなんとかお叱りあっさりコースで済んだ。それでも三十分。時間がないとか言いながらそれだけの時間はしっかりと作るあたり本当に優秀な奴だと剏は思う。
 けど同時にだからと言って本当にそんな誰の得にもならない事をしなくていいとも思うわけで。おかげで首やら肩やら痛いし、足も痺れた。社会人にホウレンソウは必須だ、やら何でそんな簡単なことを思いつかんのや、などもう耳にタコ。今彼の横で溜息を吐いている彼女がいなければ延長を食らっていたのではないかとさえ思う。
 そんな剏はお叱りが終了し、金髪の見知った女性――フェイト・T・ハラオウンに案内され外にあるという訓練施設へと向かっていた。
 お小言の最後にはやてから訓練場へ行くようにと言われたのだ。
 到着早々何故そんなところに行かなければならないのか疑問三割、嫌な予感七割。というよりなんとなく検討がつく。
 しかし今はあまり深く考えずに、大人しくフェイトに付いていくことにする。

「……」
「……」

 会話がなく黙々と歩き続ける二人。先の部隊長室での静寂とはまた違う種類だが、それと同等か、それ以上に重い空気。互いに聞きたいことがある、しかしきっかけがない。お互いに相手の顔をチラチラと盗み見つつ、そんな雰囲気を醸し出している。釈然としない。周りから見ればそう思うわけで――

【互いに言いたいことがあるなら言えばいいじゃない】
「ん……」
「ぇ……」

 剏の頭から這い出たレインが呆れたように言い放つ。

【二人とももう十九でしょ? もう小さな子供じゃないんだからしっかりしないとダメだよ】
「……別に俺は」
「……う、うん」

 まるで一番年長のお姉さんのようなレインの物言いに悪態をつく剏と反省するように返事をするフェイト。異なる反応を見せる二人だが顔に出ている頬の色だけは一緒。そして恐らく聞きたいことも。

「……ゴメン、心配掛けた」
「……訳は話してくれないの?」

 剏はポツリと呟いたのみであとは何も答えない。肯定とも否定とも受け取れないその無言にフェイトも言葉が出ない。二人は既に隊舎を出て外を歩いている。海が近いせいか心地よい汐風が彼女の髪を撫でる。このまま歩みを止めなければ、数分もしないうちに目的地へと到着するだろう。このままでは有耶無耶になってしまう。今までずっと心配してきたのだ、それで済ませることなんて出来るわけがない。
 だからか、不意にフェイトが口を開いた。

「そういえばね、これから行く訓練所って、なのはとシャーリーが監修した空間シミュレーターを使ってるんだ」
「それがどう……」
「陸戦用なんだけどいろんな地形が再現出来て模擬戦とかにも持って来いなんだよ」

 六課で採用している訓練用施設は教導官である高町なのはとデバイスマスターのシャリオ・フィオーノが細部までこだわり、最先端の技術をふんだんに使用したもので真に迫る訓練が出来る。確かに物凄いものだが今それがどう関係あるのか。剏はその判断が出来ない。

「だからそれがどう――」
「だから――」

 コツンと、歩が止まった。
 目の前に広がるは海。そしてそこに浮かぶ人気のない市街地。
 見ればわかる。あそこは戦場となるために用意された場所だと。

「ここで決めよう。私の意地か剏の意地、どっちが強いか」

 いつの間に取り出したのか、フェイトの手には戦斧の姿。
 それを剏の方へと向けてくる。何故そんなことをするのか、彼女の考えがわからない剏ではない。
 ……要は勝てってことか。
 剏が勝てば何も聞かない。話してくれるまで待ち続ける。
 フェイトが勝てば、剏が秘密にしていることを話す。
 ただそれだけのこと。
 変わらない。初めて会ったあの頃からずっと。強情でいじっぱりで、こっちの心配ばっかりしている。
 ……ほんとに変わらない。
 昔のことを思い出し、剏の顔に一瞬笑みが零れる。

「レイン、そこらへんで見といてくれ」
【一人でいいの?】
「ああ、構わない」

 これは俺の戦いだからと。
 相棒の意図を汲んだレインはふわふわと飛んでいく。離れた所から見学するのだろう。
 それと同時に二人も市街地へと足をつける。

「アート、1st、2nd、open」
【1st、2nd、open】

 抑揚のない無機質な声が少年の後に続く。同時に形成されるは二振りの小太刀。
 二刀を左右に持ち、構える。
 BJ(バリアジャケット)も既に互いとも展開済み。武装も防具も全て揃った。ならばもう二人を止めるものなど他に何があるのだというのだ。
 戦斧と小太刀が今か今かと交差の時を待つ。
 そびえたつ建物により陽は陰り、風は止む。
 今や周囲の建物、天候、空気は須らく二人の為の舞台装置。

「手加減なんか期待するなよ」
「勝率三割くらいしかないのによく言えるね」
「……今日は勝つ」
「勝つのは私だよ」

 陰りが徐々に晴れ、得物を握る手に力が籠る。
 風はない。しかし互いの魔力がマントとコートをなびかせる。

「俺が――」
「私が――」

 二年ぶりの邂逅。
 話したいことはたくさんある。
 けどその前に見せてもらう。
 貴方の――
 お前の――
 二年間を。

「「勝つッ!!」」

 金と蒼が激突した。
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