魔法少女リリカルなのはStSsyo

□第一話
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「――ここだよな?」
【――そうみたいだね】

 寝癖で跳ね返った髪を直しながら一人の少年が建物を見上げている。
 首に巻かれたチョーカーが印象的な少年。黒目黒髪のという日本でよく見る典型的な容姿をしているがここミッドチルダではそこまで黒髪が多いわけでもなく、少々目立つ。それ以前に背が低く、童顔である少年の整った容姿もそれに合わさり目を引くのだ。
 彼とて男の端くれ。可愛いと呼ばれて嬉しくなどないし、それならまだカッコいいとかハンサムだとかの方が幾分かマシかもしれない。

「……いや、絶対ない。寒気する」
【何言ってんの?】

 自分の言葉に嫌悪感を抱きつつも頭上から聞こえる声は無視する。
 今少年の目の前に佇む建物。
 時空管理局、古代遺失物管理部――通称【機動六課】の本部隊舎であると同時にこれから少年が働くことになる場所でもある。

「結局遅れちゃったな」
【呑気な言いぐさだけど丸一日遅れたんだよ? 結構余裕あるよね】
「……うっさい。考えないようにしてたのに……」

 ミッドへと来る際に立て続けに起こった不運により少年はものの見事に到着が遅れてしまい、気が付けば一日が経過していたのだ。脳裏に浮かぶのは馴染み深い三人娘のフリーズスマイル。あの表情を笑顔だというなら全世界全員が常に笑顔ではないのかと思うほど。何にしてもこれから言われることになるだろう説教を考えるだけで寒気が奔る。
 だから正直行きたくない。面倒そうだし。

【まぁうん、ご愁傷様】
「縁起でもないこと言うなよ……てかお前絶対楽しんでるよな、“レイン”?」

 少年は頭上へと視線を向け、髪の上に微笑みながら座り込む“レイン”を睨みつける。
 彼の頭に乗っているのは言うならば少女の小人。
 着物を着飾り腰まである長髪を風で靡かせる姿はまるで一つの絵画のよう。
 小人の彼女――レインは満面の笑みを浮かべながら少年へ返答する。

【だって実際面白いもん。一体何されるんだろうね】
「いや何で手が出ることが確定事項なんだよ」
【別に手が出るなんて言ってないよ。足が出るかもしれないし】
「どっちも一緒だバカデバイス!」
【ふーん、じゃあバカな私はもう仕事手伝えないよねー。一人で頑張ってねー】
「そ、それとこれとは話が違うだろ!」
【一緒だよ一緒。世の中繋がってない話なんてないんだよ】
「……手伝ってください」
【じゃあ何か言うことがあるよね?】
「……ごめん」
【うん、素直に謝れる子はおねーさん大好きだよ】
「……誰の真似してんだよ」

 そう言って自身の頭を撫で始める長年の愛機に少年は深く溜息を吐く。
 いつもあの手この手で勝利を掴もうとするのだが毎度言い負かされてしまう。少年が口喧嘩でレインに勝てたことなど片手で数得られるだけあるかないか。対する彼女は幾百幾千勝利を収めている。それでもめげないで立ち向かう姿が可愛いと言われてしまい一時期は抵抗する気もなくしてしまっていた程だ。いつかレインを言い負かすという細やかな野望を抱いているのは彼だけの秘密だったりする。

【ねえ早く中に入ろうよ。これ以上待たせるのも悪いよ】

 既に一日遅刻しているこの状態でこれ以上も何もないかとも思うが少年は髪の毛を引っ張りながら催促するレインの言葉に従って隊舎へと入っていく。

【へえ、さすがは新隊舎。凄い綺麗】
「ここで一年間働くことになるんだな」

 中に入ると外観同様綺麗なロビーが二人の視界に広がった。ここは機動六課の為に改めて建てられた隊舎なのだが、六課自体が試験運用ということで活動期間は一年間と定められている。にもかかわらずこれだけの隊舎が新たに建てられたところをみるとこの部隊がどれだけ期待されているのかが容易に想像できる。
 もっとも煙たがられている可能性も否定できないが。

「まずは部隊長室に行かないとダメなんだよな。けどどこだ?」

 ぱっと見ただけでも広いことがわかる隊舎だ。何も知らずに歩き回れば絶対迷子になるだろうから誰かに案内を頼みたいが何故か誰もいない。
 仕方がないのでここで誰かが来るのを待ってるかなあ、と考えていると丁度目の前の通路を一人の女の子が横切った。

「ちょっとゴメン」
「私? あ、はい。なんでしょう?」

 ――あれ?
 こちらの方へと振り返ったのはクリッと大きな瞳の青髪短髪の女の子。大きな瞳を付けた顔からは何故呼び止められたのだろうか、という疑問符が浮かび上がっているが活発そうな印象を受ける女の子。しかし少年が感じた印象はもっと別のもの。その印象を確かめるべく少年はとある一言を口にした。

「君どこかで会ったことないかな、結構昔に?」
「……はい? え、え?」

 元来こういう声の掛け方をするのはとある人種だと相場は決まっている。そのことに全くといっていいほど気が付いていない少年に彼の相棒は親切にも教えてあげることにした。

【ナンパするならもう少し言葉を選ぼうよ。一体いつの時代の手段なの?】
「は? ナンパ? いやいやいや、違うから! そんなつもり全然ないから!? ってそこ! 顔赤くしない、両手を頬に当てない!」

 えーでもそんな急に言われても私こんなこと初めてだし、まだお互いのこと全然知らないしーまずはお友達から初めて――などといやんいやん身体をくねる女の子にはとりあえず現実に戻っていただく。

【剏ちゃんは一筋だもんね。ナンパなんてしないか。でもそういう言葉はいろいろ誤解されちゃうことも多いから気を付けて使おうね】
「誰が何をどう間違えるんだよ。あ、あと一筋とか言うな!」
【それがわからないから剏ちゃんはいつまで経ってもマヌケのままなんだよ】
「いつもいつも事あるごとにマヌケマヌケって……俺はそんなに抜けてないわ!」
【ふーん、わからないのは本人だけってよく言うよね? この間だって小石に躓いた女の子に――】
「あ、あの――」

 呼び止められてここまでツッコまれたこと以外終始枠から外れていた少女が話の間に割り込んだ。少女とて制服を着ている以上ここで働いていて、仕事があるのだ。いつまでもこんな所で漫才を聞いているわけにはいかない。意を決して少女は呼び止められた訳を聞く。

「ああ、ゴメン。部隊長室って何処にあるのかな? 良ければ案内してほしいんだけど」
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