魔法少女リリカルなのは新たなる夜天の騎士

□第0話 プロローグ
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「……ん……」

 耳元で鳴り始めたアラームを聞いて俺は目を覚ました。
 春先とは言えまだ朝は寒い。
 あったかい布団の中からは極力出たくはなかったが、出なけりゃ朝飯は食えやしない。
 
「お兄ちゃん? お兄ちゃ〜ん」

 消えない眠気に軽く意識を持っていかれそうになっていたところに飛び込んんできた関西弁。
 それを聞いて俺の意識は踏みとどまって戻ってきてくれた。

「お兄ちゃん、はよ起きんと。 今日は朝からアルバイト行くんやろ?」

「ん…… 今起きる……」

 ここで常套句の『あと5分』なんて言おうものなら絶対に起きられない自信がある。
 おれは布団を跳ね除け、全身に力を入れて起き上がった。

「おはよう、はやて」

「うん、おはようさんや」

 いつもと変わらぬ愛らしい笑顔で朝の挨拶に答えてくれる妹のはやて。
 訳あってこの家に二人暮らしをしている俺にとって唯一の家族。
 料理は上手いし、家事もそつなくこなす上に頭もいい。
 俺の自慢の妹だ。

「んじゃ、行くか」

「うん」

 俺ははやての後ろに立ってハンドルを握る。
 きい……と微かに軋んだ音をたててはやての乗った車椅子がゆっくりと動き出した。

 今日もいつも通りの平和な朝だった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「ごちそうさま」

「はい、お粗末様でした」

 両手を合わせて一礼し、俺は食器を片付け始める。
 振り返って見ればはやてはノートの上でペンを走らせていた。
 
 いつもの日課だ。 
 俺が教えた料理を作るたびに俺から感想を聞いて、次に作る時の参考にするそうだ。
 
「そういや今日のだし巻き卵、美味かったよ。 また腕あげたな」

「えへへ〜 ありがとう。 でもまだまだお兄ちゃんには全然追いつけへんなー」

 はやてに料理を教えるようになってから早数年。
 正直はやての年でここまで料理ができる子なんて、日本中探してもいるかどうかって位にはやての料理は美味い。
 自分の妹の事ながら嬉しいことだ。
 
「そりゃ俺が教えてるんだ。 軽く追い抜かれたらお兄ちゃんとしても立つ瀬がないよ」

「あはは それもそうやね」

 朗らかに笑うはやてを見ていると俺も自然に笑顔になっていた。

「……っと」

 壁にかけた時計に目をやればもう7時10分前だった。
 そろそろ家をでないと間に合わなくなる。

「ん もう時間やね」

「あぁ 行ってくるよ」

 いつも使っている鞄に必要なものを入れて玄関に向かう。
 見送りに付いてきてくれるはやての頭に、軽く手を乗せて頭を撫でる。
 これもいつもの日課だ。

「はやて、今日も図書館か?」

「うん この子と一緒に本に囲まれてると凄い落ち着くんや」

 そう言ってはやては自分の膝の上に乗せた一冊の本を撫でた。
 重厚なハードカバーの一冊の本。 特に目を引くのはその本を取り囲むように巻かれた十字の鎖。
 この鎖のおかげで俺は勿論、持ち主のはやても一度も本の中身を見たことがない。
 それでもはやてはこの本を自分の身体の一部のように大事にしていた。

「そっか。 じゃあ、バイトが終わったら迎えに行くから」

「うん、待ってるな」

「車には……」

「十分気を付けて……やんね?」

「あぁ、いってくる」

「うん、いってらっしゃい」

 短いやり取りを交わして俺は家を出た。

 いつも通り。 いつも通りだった。 なにもかも。
 俺たちはそれに気がついていなかった。
 今日がいつも通りの日常のその最後だということを……



―魔法少女リリカルなのはA`s―
   新たなる夜天の騎士

     始まります

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