頂き物

□ロシアとアナスアシア(史実もの)
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ロシアとアナスタシア
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 初めて引き合わされた彼女を見たとき、ひまわりの様な笑顔を持った子だなぁと思った。



†††



 僕がアナスタシアに会ったのは上司からの呼び出された時だった。その時の上司は皇帝に稀な内気で家庭的な人だった。

「アナスタシア、挨拶しなさい。彼が私たちの”国”だ。普段はイヴァン・ブラギンスキと名乗っているのだよ」

 その性格とは裏腹に病弱だった彼女は父親の背に隠れたまま、こちらを窺っていた。仕事の合間に上司から家族の話を聞いていたから彼女があのアナスタシアだと言うことはすぐに分かった。でもその日、彼女は僕と話そうともしなかった。
 上司の子供だからと言って仲良くする義理はない。僕は大した興味も持てず、すぐ割り切ってしまった。



†††



 書類を片付けているとカタリと扉が開き、ひらひらした何かが部屋に入ってきた。アナスタシアだ。彼女はドイツ語が壊滅的だと聞いていた。だからか、嫌になると逃げ出すんだとか。話半分に聞いていたそれが目の前で起こっている。
 追い出そうか? そんな考えが頭に浮かんだ。彼女が部屋に居ることで僕に何かしらお叱りが来るはず。それはとても面倒だ。だが、

「ヴァーニャ。ここにしばらく居てもいい?」

その呼び方に一瞬時が止まった。
 ヴァーニャ。明らかに彼女は僕を愛称で呼んだ。あれから会うことなど無かったし、話したこともない。でもその言い方が子供の時のベラルーシにとてもよく似ていて……。

「お出で。こっちの方が見つかりにくいよ」

何故かほっておく事が出来なかった。
 僕の机に隠れて一休みするアナスタシア。しかし、ここにどうやって来たのだろう。上司は子供達に仕事場への立ち入りを許可していたのだろうか?
 コツコツ。控えめにドアがノックされと、アナスタシアが足元の隙間に隠れる。慣れているのかスカートの裾一つ外に見せなかった。

「どうぞ」

「わ、我が国。アナスタシア様を見ませんでしたか?」

 息を切らしながら入ってきたのはアナスタシアのドイツ語教師。可哀想なことに彼は教科書を小脇に抱えたまま彼女を探していたらしい。外は寒いというのにすっかり汗だくであった。

「さっきまでここに居たけど」

「ど、何処に行かれましたか!?」

「多分庭じゃないかなぁ」

 ごめんね。彼女、本気で嫌がってるみたいだから庇わせてもらうよ。ドアから慌てて出て行った教師の背中に向かって今頭で思いつくだけの謝罪を述べる。

「行ったの?」

 机の下に隠れていたアナスタシアが顔を出す。

「行ったよ。今のうちにお父さんの所に行ってお出で」

 首から下がったカメラはまだ新しい。恐らく撮ったばかりの写真を現像してくれるよう上司に頼むつもりだったに違いない。上司はあれで家庭的な人なのだ。

「うん」

 ドアを少し開けて周りを見回した後、アナスタシアは廊下に消えていった。
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