その他本棚

□壊れかけたビルの上で
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アマ燐♀
ちょっとモブ燐





あのさぁ〜、奥村燐ちゃんだっけ?ちょっと来てほしいとこがあるんだけど、いいよね?…塾がある?偉いねぇ塾とかいってんだ。でも大丈夫大丈夫、ほんのちょっとだから。雪男?ああ、弟くんね。仲いいんだね、でもなんでも弟に聞かないとしちゃいけないなんて大変じゃない?ていうか、嫌じゃないの?あ、もうそろそろ行きたいんだけど。…ああ、言ってなかったね。燐ちゃんに会いたいって人がいてね、待たせてるんだよ。

とか言われて断りきれず着いていった私が悪いのか。
ずっと歩いていてどこまでいくつもりなんだろう、いくら聞いても教えてくれない。
もう確実に塾に間に合わない。雪男に怒られるのは嫌だなぁ。


着いていった先は広すぎる正十字学園のこれまた大きすぎるくせに使われていない第7体育館倉庫。絶対7つも体育館は要らないだろ、と内心ツッコミを入れつつ足を踏み入れた。

バタン
とたんに辺りが真っ暗になった。

「ちょっ…え?」

腕を掴まれ引き倒された。マットか何かの上に倒れたらしく衝撃は少ない。しかし暗闇の中。訳がわからない。
まだ腕は掴まれたままだ。

「うわっ何するんだよ!」

ジャケットのボタン
が外され、リボンをとられる。

本気で抵抗すれば逃げられるが、その代わりこいつらが大ケガをする。
人に怪我をさせるのはなんとしてでも避けたいという思いがあったために、あまり抵抗できずにいた。

しかし、暗い中逃げるにしてもどこに逃げれば良いのかさっぱりわからない。
炎を出せば明るくはなるが、確実にここにいる5、6人を殺してしまう。

「ひぁっ」

ブラウスの中に誰かの手が入ってきた。

「お、可愛い声出るじゃん」

誰かわからないけど、そんなことを言われた

やばい、やばい、やばい。
キレそうだ。
抑えろ、抑えろ、抑えろ。
「あ?なんだこれ」

「ひぎぁぁぁぁぁ!」

ブラウスの中に隠していた尻尾を掴まれ悲鳴をあげた。
途端に少し炎が出てしまった。が、怪我を負わせるまでにはいかなかったようで、安心するのもつかの間、ブラウスをまくられそうになった。

その時だった
ぱりん、とガラスが割れる音がして、真っ黒なカーテンがうごいた。
傾き始めた夕方の強い光が倉庫内を照らし出す。

「こんなことになっても抵抗しないなんてどこまでバカですか奥村燐は」

緑色の変な頭、眠たそうな目。高い窓を蹴破って入れるやつなんて一人しか
知らない。

「兄上がものを壊すなって言うからわざわざ窓からはいってあげたんです。感謝しなさい」

「アマイモン!」

「だ、誰だよコイツ!」

男子生徒の一人が声を上げた。

「おや、人の分際で生意気だなぁ。その口えぐりとってあげます」

「アマイモン!お願いだ、殺さないでくれ!」

怪訝そうな顔をされた。

「だからこんな目にあっても逃げなかったんですか。君の力ならこんな人ごとき、簡単に殺せるでしょうに。本当にバカですね奥村燐は」

で、どうしてほしいです?殺さないとか難しいなぁ。ていうかなんでずっと動かないんですか
と足を組んで窓の縁に座りながら言う。

「尻尾…掴まれてて、上手く力入んないんだよ!
…アマイモン、私を助けろ!」

りょーかいです
といって飛び降りてきた。
私のところまで一直線に飛んできて、手を差し出す。

「じゃ、行きましょうか」
すると、呆気にとられている男子生徒の中の一人が立ち上がって言った。

「さっきからなんなんだよアンタ何者だよ!?」

「燐ちゃん誰なんだよこいつは!」

「奥村燐は僕のバカで可愛い末妹ですよ」

私が口を開く前にアマイモンがそう言い放ち私を姫抱きに抱きかかえ
て、飛んだ。

一気にまた高窓のところに乗り、後ろを振り返る。

「さっきすこし地盤を動かしちゃったんで、この建物がちょっと歪んじゃいました。たぶんお前らはここから出られないですよ。あ、今度こんなことがあったら次は殺します」

殺気立った目でそう言い残し、真っ赤な夕焼けに飛びだした。



「なんでこんなことになったんですか」

私は事のあらましを全て話した。
彼の表情は変わらない。
全てを聞き終えると

「わかりません。奥村燐は甘いです。どうして人間を庇うのですか」

「……今まで私を信じてくれてた人の努力が、無駄になっちゃうだろ。しかも、みんなから離れなくちゃならなくなる」

だから、と続けるつもりだったのに。
涙が溢れてきて止まらない。今更怖さが襲ってきたのだ。

「…わかりません。僕の可愛い燐を泣かせる奴らの何が良いのか。ねぇ燐、僕と一緒にゲヘナに行きましょう。…こんなことを燐がされるのはもう嫌です。ゲヘナで一緒に暮らしましょう」

ねぇ燐、ともう一度私の名前を呼んで、アマイモンは私の頭を抱きしめる

まだ、私はまだここにいなくちゃならない。一瞬、もうゲヘナに行ってしまいたい、アマイモンの腕に溺れたい
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