黒子本棚

□共依存
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黒赤黒
セルフ弁論大会







ぱたん。
赤司征十郎は青いハードカバーの本をとじた。タイトルは《ある囚人の死と》。

「ねえ聞いてよテツヤ。さっきこの本を読み終えたんだけどさ、生きてる間っていうのは結局のところ死ぬまでの繋ぎの期間に過ぎないんだよ。すべてがわざわざ遠回りでそれなのに皆死ぬときを怖がるんだ。
「もちろん近道もあるんだよ。遠回りなんて面倒だろう?簡単さ、自殺すればいいんだよ…それも怖いなら誰かに殺してもらうとかね…ああ、何人か殺して死刑になるのもいいと思うよ。そうすれば今の日本の法律によって必然的に殺されるから
「でもそういうときばかり死にたくないなんて思っちゃうんだよね人間は。だから警察に見つからない様にビクビクして過ごすんだ。日本の刑務所なんて、全然楽に暮らせるのに。もしかしたら普通に生きるより楽かもね。
「睨むなよ怖いじゃないか
「でもほんと面白いよ。それでもって今度は刑務所の中でさえ死にたくないなんて言うんだから。笑えるね。皆神様に祈ってるんだよ。…ああ、実際に祈ってる訳じゃあない、心が無意識に祈ってしまうのさ。神様なんていないってことはよくわかってるはずだろうにね
「僕だったら少し
でも楽に生きたいし、だれよりも先に逝きたいね
「そういう囚人達の心理には面白いところはまだまだあってね、自分の願い―死にたくないって言うヤツだけど―叶わないと知るや否や『早く殺せ』って言ってくるんだ。そんな彼らの中ではね、妬み、僻み、憎しみ、悲しみ、嘆き、怒り…ありとあらゆる負の感情が全てを支配してるんだよ。
「遺言みたいな事を言い残して逝くやつもいるらしいし、無阿弥陀仏って念仏を唱えながら逝くやつもいるらしい。そんな言葉なんかに意味は無いのにね
「…テツヤは生まれたときって言うのは、全員平等だと思ってないかい?…そうだろうね、そうでなければテツヤはこんなにいいプレーヤーにはならなかっただろう
「例えばほら、入り口と考えてみれば分かりやすいだろう?出口に近い方の入り口から入ればだれだってすぐに出口に辿り着けるさ。当たり前だろ?
「しかも入り口があるのは平面上だけじゃないんだ。斜め上から転落していくだけの道かもしれないし、下の方から登り続ける道かもしれない。エレベーターやエスカレーターがついている道もあれば今にも切れて落ちそうな縄梯子を通らなくてはならないかもしれない
「これがこの本を読んだ僕の感想なんだけどさ
て君には理解できるのかなテツヤ」


やっと赤司くんの話が終わった。
彼は話ながら手で弄んでいた青いハードカバーの本を手放し、落とした。

ゴツン

角が曲がってしまったな、と思ったが、僕のものではないので本当は気にする必要はないのだ。
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