黒子本棚
□曇天日和
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黒子がバスケ部を辞めた直後のはなし。
二人は付き合ってる設定で
風が校舎の中を通り抜ける
階段と壁の境界でくるくるとつむじ風になり、端に溜まっていた埃を巻き込む
俺はそれを見て風は水に似ていると思った。
誰かがとめない限り流れ続ける小川の冷たい水のような。
乗り越えられない壁に気付かずに進んで跳ね返り、飛沫を飛ばす流れのような。
俺は長い階段を上り今日も屋上へ向かう。
もうアイツが来ないとわかっていても、俺の身に付いた習慣はなくならなかった。
そもそもサボるために俺が屋上を使っていたのだから、アイツが来なくなったことで元に戻ったと言えばそうなのだろう。
屋上の、更に上へ。
給水タンクがあるところへ、銀色の短い梯子を上る。
「広いな…」
俺しかいないここは、とても広すぎて。
―ここで一緒に弁当食ってたな。まぁ俺は早弁しちまうからいっつもパンだったけど。あぁ、最初にキスしたのもここだったっけ…
思い出が、頭から溢れてくる。決壊した川の水のように、どんなに塞き止めようとしてもすり抜けて広がって、心も、体も、何もかもを浸食してしまう。
俺はいつの間にか泣いていたようだ。頬を撫でる風が異
様に冷たくて、気付いた。
ついこの間まで、ここは二人の場所だったから、並んで座っていたけれど、ぽっかり空いた隣の空間が無性に嫌になり、寝転んで曇った空を見上げる。
上を向いていると言うのに、俺の涙腺は決壊したまま、行き場のない涙が溢れて目の端を伝う。
空が曇りで良かった。もし、澄んだ空色が広がっていたら、あのさらさらの髪を、あの感情が解りにくいけどまっすぐに俺を見つめていた目を、思い出してしまうから。
それでも、どこかであの空色を見たいと思っている。
触れたいと思っている。
また涙が溢れて目の端を伝う。
少し、雲が退かないかと思い手を伸ばしてみる。届くはずもない。退くはずもない。
「もう、いないのか……?」
届くはずのない問い掛けを、届くはずのない曇り空に放り投げる。
これがもしバスケのシュートなら、簡単にリングをくぐるだろう。
「テツ…」
返事の来るはずのない呼び掛けを風に乗せてみる。
「呼びましたか?」
下の方から声が聞こえた気がした。
「人の名前を呼んでおいて無視するとはいい度胸ですね、青峰くん」
視界が空色に変わった。
否、空色に戻った。
すきま風は、止んだ。
状況を認識
できるまでに数秒かかった。
俺は驚いて目を見張る。
「…テツ!?どうしてここにいんだよ?」
「少し疲れたので、サボって青峰くんに会いにきました。…邪魔でしたか?」
他の奴が見ても絶対解らないだろう。小さな表情の変化だが、彼は不安そうな顔をした。
俺は覗き込む顔を引き寄せて抱き締めた。
「…っ邪魔なわけねえだろ!…テツ…俺、テツに…会いたかった!なんで、なんで来なかったんだよ…!なんで俺から離れて行くんだよ…」
最後の方は泣き声みたいになってしまったが、俺は言いたいことをぶちまけた。
「…ごめんなさい。部活を辞めると言ってから休憩時間はずっと赤司くんに付きまとわれてて…いくらミスディレクションで撒いてもすぐ見つかるんです。…………その、屋上には、青峰くんと二人だけがいいので……」
最後の方は顔を真っ赤にしながら、彼はまたごめんなさい、と謝ってきた。
「俺は…まだテツと一緒にいていいのか?」
そう聞いたら彼はふっ、と笑って、
「部活を辞めたからといって、恋人まで辞めるつもりはありませんよ?」
もしかして別れたとか思ってたんですか、と彼が言った。
俺は図星だったので何も言えなかった。
「図星で
すか…傷つきました。お詫びにぼくのお願い聞いてくれますよね」
傷ついたと言うわりに、なんだか楽しそうである。まるで悪戯を思いついた子供のようだ。
「ああ、いいぜ。何でも聞いてやるよ」
すると彼はまたふっ、と笑い、こう言った
「僕にもう一度、告白してください。そうしたら許してあげます」
なんだ、そんなことか。俺は彼の両頬に手を添えて、口付けた。
「好きだ、テツ。俺ともう一度、付き合ってくれ」
シンプルでどこにでもありそうな、真っ直ぐな言葉をさらっと、だが真剣な目をして言われたので、黒子は彼のこう言うところが好きなのだ、とおもった。
きちんと返事をしよう。
「僕も、大輝君のそういう真っ直ぐなところが大好きですよ」
「だっ…大輝君て!いまテツそう呼んだよな!?」
彼は柔らかい笑顔で答える。
「はい。2度目ですし、グレードアップです。よろしくお願いしますね、大輝君」
俺はコイツに一生敵わない気がする
END
初青黒小説、やっぱり上手く落ちなかった\(^p^)/