ジョジョ本棚
□早朝に
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ミスジョル。
甘
僕は、強くなりたかった。
誰よりも。
何よりも。
だから、僕は立ち止まらない。
まだ市も開いていないような、朝早くに僕は通りを散歩する。
しかし、時間は決めていないし、毎日はしない。
自分の行動に法則性を見つけられたら、そこを狙われるから。
バラバラに、不規則に、現れる場所もまちまちで。
僕は髪もセットせず、適当にとかしただけ。
癖の強い金髪の先がくるりと丸まっている。
普段とは全く違うイメージで、この静かな朝の散歩を楽しむ。
しかし、僕はいつどんなときも警戒心を忘れてはならない。
僕はここイタリアで最大の組織、パッショーネのボスなのだから。
昔の自分は酷く臆病で、傷つきたくなくて、他人の顔色をうかがってばかりだった。
理不尽な暴力をふるう義父。
目が合えばいじめてくる、少し年上の子供たち。
僕にかまわない母親。
人に好かれようなどと言う努力は、とうのむかしにやめた。
無駄だから。
無駄だったから。
無駄。
呼んでもこない母親をよぶのは無駄。
抵抗してもやめない父親に抵抗するのは無駄。
話を聞かない子供たちに話すのは無駄。
それまで僕が生き
てきて知っていた、『無駄』は、すべてを諦めた『無駄』だった。
僕が一人のギャングを助けた後、皆が僕を恐れ始めた。
これはいい。
気持ちがいい。
気分がいい。
ぼくが、搾取される側から、する側になると決意した次の朝
日本人らしく黒い目に黒髪ストレートだった僕は、青い目に金髪の巻き毛になっていた。
後から知ったことだが、父親が悪人だったから、僕が決して善良と言えない決意を固めたときに変化したのだろう。
最初に鏡を見たときは驚いた。
しかし、新しくやり直すにはちょうどいいと思った。
つぎに僕は、名前を変えた。
潮華 初流乃
イタリア風に
ジョルノ ジョバァーナ
と。
要するに、偽名である。
ジョルノ ジョバァーナ、という名の人物は、存在しない。
ギャングの世界では偽名を名乗る人が多い。
地位が高ければ高いほど、請け負う仕事が危険であれば危険であるほど、偽名をつかい、身元を隠す。
何故身元を隠す必要があるのか。
―そりゃ、愛する人や大切な家族を守るためだろ
いつだったか、似たような疑問を口にしたときに帰ってきた彼からの答え。
愛する人、大切な家族。
家族を大切に思ったことは一度もない
。
愛する人はいつも僕の隣にいるからそんなことでは守れない。
なら、何故僕は偽名を名乗っているのだろうか。
飛躍する思考に身を委ねつつ歩く。
もう、屋敷へ戻らなくては。
そろそろ朝市が開く頃だ。
「ただいまミスタ」
リビングで眠りこけていたミスタに声をかける。
起きなかったから鼻をつまんでみた。
「ふんが!?おぅ!おかえりジョルノ」
この人に、名前を呼んでもらうのは、心地好い。
この人になら教えてもいいと思える。
もう誰も呼ばない、本名を。
「…初流乃、ってよんでください。二人きりの時は」
「ハルノ?」
「僕の、本名なんです。ミスタには知っててもらいたいんです」
僕の、愛する人だから。
というと、少し驚いたようだ。普段はこんな風ではないから。が、すぐいつものように笑って
「ああ、愛してるぜハルノ」
自分の名前をきくのは、こんなに恥ずかしいことだっただろうか。
顔が熱くなる。
「僕も、です」
きっと林檎のように真っ赤であろう僕の顔を見て、ミスタはぐしゃぐしゃと僕の頭を撫でる。
「ん…髪が乱れるんですが」
特にセットしてる訳じゃあなかったが、何か言わないといけないような気がして。
「いや、あんまり可愛くて、な?」
この人は太陽のように笑う。
僕の父親は吸血鬼だったらしいから、僕も太陽を浴び過ぎて灰になってしまうのだろうか。
その太陽がこの人なら、それも悪くはない。
\(^p^)/\(^p^)/\(^p^)/
甘さを目指してこんなことに。
甘いですか?
甘いですかね?
わ か ら な い(笑)