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□心配性
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俺と幸村は付き合っている。

告白したのは幸村の方だった。
「真田、お前が好きだ。」というとても急でシンプルな告白だった為、良き友人としての『好き』と勘違いしてしまった俺は、すんなりと「あぁ、俺もお前を良き友人だと思っているぞ。」と返し、こっぴどく怒られた。
その後、真っ赤な顔をした幸村にキチンと説明され自らも顔を赤らめた思い出がある。
結局、俺たちは付き合う事になり今に渡るが、俺には心配な事があった。
それは、『幸村が浮気をしないかどうか』という事だ。


***

幸村はモテる。
あの中性的で整った容姿、「神の子」と称される程のテニスの実力、人望もあり、男女共に好かれている。
それは、恋人である俺の密かなる誇りでもある。
が、やはり恋人として心配もしてしまう。
「幸村は浮気なんぞせん。」と思う反面、どこかで「俺で遊んでいるだけなのでは…?」といらない考えをしてしまうのだ。
そのお陰で、まともに幸村と話す事も出来なくなってきた。

(このままでは結局、距離が離れてしまうではないか…!)

何も出来ないまま時間は流れ、段々と幸村も不信に思い始めたようだった。
事あるごとに、「何かあったの?」とか「真田、最近おかしいよ?」や、挙げ句の果てには「俺は真田の恋人なのに相談も出来ないの!?」と叱られてしまった。



「はぁ…。」

部活中に悩みと疲れが混じった溜息をもらすと、後ろから「弦一郎。」と落ち着いた声が聞こえた。
俺を名前で呼ぶ人物は、この学校でたった一人だけしかいない。
後ろを振り返ると、俺よりやや身長が高いの男がいた。

「やはり蓮二か…。どうかしたのか?」

「少し話がしたいんだが、大丈夫か?」

涼しいオーラを放ちながら、そう言った蓮二は、俺を更衣室へと引っ張った。

「話とは何だ?蓮二。」

「唐突に伺うが、お前は悩み事を抱えているな?それも…恋愛に関しての、というところか。」

「…お前には関係のない事だ。」

「関係ないとは言い切れないな。最近のお前は練習もままならない状態だ。これでは全国3連覇の夢も遠ざかってしまう。」

全国3連覇という言葉につい反応してしまう。
その様子を見た蓮二は「…精市の事だろう。」と優しげに続けた。



「ほぅ…。それで弦一郎は精市が浮気してしまうんじゃないかと心配したわけだな。」

「そ、そうだ…。」

「確かに精市はモテる。つい先日も告白されていたようだしな。」

「…。」

「だが、精市が浮気するようなやつと思うか?」

「そんなことは…」

『ない』と続けようとした時、更衣室の扉が勢いよく開き、「あー!もう聞いてらんない!!」という声が響いた。

「ゆ、幸村っ!?」

目をまん丸く広げて驚いたのは俺だけだった。
蓮二の事だから、どうせ幸村が盗み聞きしている確率や乱入してくる確率なんぞ計算済みであったのだろう。

「真田ったら、そんな事で悩んでたの!?」

「そ、そんな事とは何だ!俺は本気で心配して…っ!?」

全て言い終えるまでに、俺は幸村に引っ張られ、強く、優しく抱きしめられた。
辺りを見回すと蓮二の姿はもう無かった。

「俺が浮気なんかするわけないじゃん…。真田ったら心配しすぎ。」

まるで、『大丈夫、大丈夫』と子供をあやすように、暖かい掌が俺の頭を撫でる。

「すまない、幸村。疑ったりして悪かった…。」

「もう、真田の心配性。」

微かに聞こえた優しい声に安心し、まさか仁王に全部録音されていると思わなかった俺達は、しばらくの間、恋人らしいムードに覆われていた。


おしまい。

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