長編

□5、理由
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5、理由
      そういえば、幽霊が見えるんだと言われたことがあった。
      彼が気配に敏感だったのは、すり減っていく命が、他の命に反応していたからかもしれない。      

 部活終了後。
 椅子を片付けるため石瀬さんのところに行った。

  「今日は黒子くんが来てくれたんだね。ありがとう。今日もいいもの描かせてもらったよ」
  「いえ、こちらこそ。僕らのことかっこよく描いてくれて、ありがとうございます」

 やっぱり、彼は僕に気づく。
 普通の人と同じように。

  「…どうして石瀬さんはいつも、影の薄い僕のことに気づくんですか?」 
  「黒子くんの影が薄い?」

 台をたたんでいた手が一瞬止まった。
 その視線はこちらをみて不思議そうに見ている。

  「何言ってんのそんな髪色で」

 え、と思わず声が漏れた。
 影が薄いだなんて心底考えられないと言うように返された。
 確かに水色なんていかにも目につく色のはずだが、僕は今まで、それを理由には出来ないくらいに他人から認識されてない。
 むしろなぜ髪色だけで気づくのか。
  …石瀬さん、だから?

  「俺、黒子くんが影薄いだなんて思ったこと無いよ。まぁ、周りの人曰く薄いらしいけど…」
  「!」
  「そのうえ独特なプレーしてんのに。むしろ目が行って困るくらいだよ」
  「ぁ…」

  視線が黒子くん追っちゃうしね。パスしてる時とか特に。やっぱかっこいいからかぁ?
 そう言って、いたずらっ子のように彼は笑った。
 綺麗に、彼は笑った。
 その笑顔を見て僕は、石瀬さんのことをもっと知りたくなった。

  「…ありがとう、ございます。そんなこと言われたの初めてで、すごく、うれしいです」
  「ん、…ん。…なんか、改めて礼を言われると、照れるな」

 ちゃんと台をたたみ終えて、立ち上がる石瀬さん。
 彼は僕より背が高いから、必然的に見上げる形になる。
 わずかに見えた耳がほんのりと赤く染まっていた。
 無性に抱きつきたい衝動に駆られたが、こらえる。
 流石に飛びつくのは失礼だ。

  「じゃ、俺病院に戻るわ。また描きに来てもいいか?」
  「もちろんです。みんな喜びます。当然、僕も」
  「ははっ!うれしーな」

 松葉杖を持っていない手で、くしゃりと頭を撫でられる。

  「あ、の」
  「ん?」
  「…今度、お見舞い行ってもいいですか?いつも圭太さんばっか来てもらっては悪いですから」

 ちょっと勇気を出して言ってみる。
 まぁ、見舞いに勇気を出すのもおかしな話だが。
 彼は、きょとんと停止してから、すぐに花が咲くように笑った。

  「もちろん、大歓迎だよ黒子。ありがとな!」
  「ッ…はい!」

 さて、見舞いの品は何がいいだろうか。
 後で木吉先輩に聞いてみよう。

 ◇◇◇

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