長編

□1、絵
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1、絵

      ずっとバスケ一筋だったから、正直、彼の気持ちはよくわからなかった。


 木吉がある日、一枚の絵を持ってきた。
 白黒の鉛筆描きのそれは、病院で木吉とキャプテンとカントクが談笑している光景が描かれていた。
 
  「先輩。何すかコレ。すっげー上手いんですけど!?」

 降旗が興味津々といった表情で問う。
 他の一年の部員もすげぇすげぇと騒いでいた。
 内心、本当に木吉先輩病院にいたんだよな…今の元気さからは想像できないけど……腹減った
 と少々失礼なことを考えていた奴もいるが。
 そんな失礼な奴をよそに絵を持ってきた本人、木吉は、にこやかな笑顔を浮かべていた。
 
  「上手いだろ!これな、入院してた時相部屋だった人が描いてくれたんだ」
  「あぁ。石瀬さんが描いたやつか」
 
 日向を筆頭に、やっぱり、と二年生一同がうなずいている。
 二年全員、その石瀬という人と面識はあるらしい。
 身内自慢をするかのようにきらきらと話す木吉を見て、一年生も興味がわかないわけがなかった。

  「その、石瀬さんという人は画家かなにかされてる方なんですか?」

 ぅお!いつからそこに!?と周りを驚かせながら、最初から一緒に絵を覗き込んでいた黒子が無表情に質問した。
 他の部員よりも本を読むなど文化的な面も持ち合わせている黒子だ。
 表情はわかりにくくとも、興味があるのは雰囲気でわかった。

  「いや、画家じゃなくて美大生なんだ。でもやっぱり、画家かと疑うくらい上手いよなぁ」
 
 バスケ一筋な彼らには、ノートの端に描く落書きならともかく、技術を活かした絵の善し悪しを判断する力など当然無い。
 しかし、大学生という未知の領域なうえ、美術という動き回るバスケと正反対な分野に、一年の心は鷲掴みだった。
 他の絵はどんなものが描かれているんだろうか。

  「先輩!他にも見せてくれませんか!?」
  「あ、俺も!もっと見てみてぇっす!!」

 友人の絵が気に入られたからか、木吉は誇らしげに、今度持ってくる、と言って笑った。

 ◇◇◇

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