オコジョ番長 -いちばん大切なもの-

□第九話
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長い夏休みも、あっという間に過ぎていった。

新学期が始まっても、オコジョ番長の姿はない。

一見変わらぬ学校生活。

だが、いるべきところにいるべきひとがおらず、皆心のどこかにぽっかりと穴が開いたような気持ちだった。

ゆうた「オコジョ番長、今も治療しているのかな」

トモコ「いつになったら戻ってくるのかなぁ。このままだと留年しちゃうよ、オコジョ番長・・」

槌谷「・・・」コックン


体育祭が終わり、季節は秋へと向かう中。


塚原「残念ながら・・・」

カンファレンスルームで、塚原は血液データを見せながら言った。

塚原「オコジョさんは寛解にはいたりませんでした」


フェレット番長とコジョルー、そしてオコジョ番長の家族達は、皆真っ白に燃え尽きたように、何も喋らず、動かなかった。

塚原「白血病細胞は減ったが、顕微鏡で見るとまだ5割も残っている。本当は見えてはならないのだ。沢山の白血病細胞が抗がん剤をかわして、全身で増殖を続けていると思われる」

何度もこういう話をすることは経験しているのだろう。

塚原は慣れた口調でつづけた。

塚原「今までの当院での治療成績から見て、骨髄移植をしても失敗するだろう。残念ながら余命は・・・」


余命宣告が出る。

二人にはそれはまるで、駅のアナウンスのように乾いて聞こえた。

塚原「もって、年末まででしょう」


その時オコジョ番長の父が、スイッチが入ったかのように動き出した。

父「もう、退院させます・・。ありがとう、ございました・・」

父はプルプルと小さな手を震わせながら、

父「お世話になりました・・・」

塚原に深く頭を下げた。

フェレット番長はその頭を下げた姿を見て、ようやく体が動き出した。

フェレット番長「ちょっと、あいつのところ・・行ってくる」

ふらっと立ち上がる。

コジョルー「わ、私も・・!」

涙は出なかった。

出口のドアの方へ、焦点の合わない目で歩き始める。

塚原「お待ちください。当院では実験的な治療も行っている。新しい治療法を、試してみないかね」

父「新しい、治療法?」

ドアノブに手をかけたフェレット番長も、コジョルーと共に立ち止まった。

塚原「『複数臍帯血移植』という、近年アメリカで実験的に行われた最新の治療法だ。赤ちゃんのへその緒の血液の中には、骨髄にあるのと同じものが沢山入っている。骨髄の代わりに、二人分のへその緒の血をオコジョさんに移植するんだ」

塚原の説明によると、なんとドナーが合う合わないの心配をしなくてもいい、年齢制限もない、いつでもできるという夢のような治療法だった。

塚原「一人分のへその緒の血を移植する『臍帯血移植』という治療法は今までも行われてきたが、量が少ないので小さな子供の患者しか成功できなかった。しかし二人ぶんの臍帯血を使って量を増やすことで、
成人の難しいタイプの白血病でも成功しうるかもしれないという研究結果が出ている」

フェレット番長は何度も思った医学の進歩を否定する考えを大急ぎで取り消した。

コジョルー「それで、それでオコジョ番長は助かるの・・?」

父はまたわっと泣き出し、家族を抱きしめた。

今度はフェレット番長とコジョルーも、思い切り何もかもかなぐりすてて泣き声をあげた。


成功率は20パーセント、という声は聞こえなかった。
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